彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
ーーー人生何かの歯車が狂うと他の歯車もかみ合わなくなりそこから先はもうガタガタだ。
日に日に窶れていく康ちゃん。
それでも何かに取り憑かれたように仕事をしている。
心配で堪らない。
だけど、私からの連絡は全て拒否されたかのように返事がこない。
実家である久保山家にも顔を出していないのだとか。
私は無理やり約束させられた決まりごとのため、一人暮らしの部屋で暮らしている。
1人って寂しい。
史也さんは更に忙しくしていて、連絡するのも申し訳ないくらいいつも仕事に追われている。
最近は健斗兄さんも残業続きで週末も史也さんを伴いパーティーに出席することもあるらしい。
私だけが同じところで動いていない。取り残されたような焦燥感で胸が切なくて苦しい。
…先輩秘書と近所のカフェにランチに行こうとエントランスを歩いていると、外国人の幼い子どもを連れた専務に呼び止められた。
「下平さん、ちょうど良かった。君、確かイタリア語が出来たよね。ちょっと手伝ってくれないか」
「ええ、私でよろしければ」
どうしたというのだろう。
よく見れば、子供は幼稚園児くらいの女の子で両目に涙をためている。この子の保護者はどこにいるのだろう。周りを見てもそれらしき人はいない。
「ここまでひとりでタクシーに乗ってきたらしいんだ」
「ひとりでですか?」
「ああ、タクシーの運転手の話では名刺を出して泣きながら連れて行って欲しいと言ったのだと。周りに大人がおらず困った運転手が連れてきたと言うんだがね。確かに名刺は私のものだけど、どこのお宅のお子さんなのか私には心当たりがなくてね。おまけに何を言ってるのかさっぱりで」
専務が困ったように少女の顔をのぞき込むと、少女はびくりと身体を震わせてしゃくり上げた。
「専務~泣かさないで下さいよ」
専務秘書がはあっとため息をついた。
「まさか、隠し子じゃないですよね」
「やめてくれよ。そんなはずないじゃないか。わたしは妻一筋だし、あり得ないから」
専務秘書に疑いの眼で見られた専務は「下平さん、この子から事情を聞いてくれないか。英語ならともかくイタリア語なんてさっぱりで」と頼み込んできた。
わかりました、と言ったものの子供は得意じゃない。さっさと終わらせてこの場から逃げようと決める。
『あなたのパパかママはどこにいるの』
少女は無言で握りしめてくしゃくしゃになった名刺を私に押しつける。
名刺を広げると、それはやはり専務のもので。私と専務秘書の視線は専務に向かう。
「だから違うと言ってるだろう!」
専務の大声に少女が泣き出した。
しくしくと泣いてくれたのならよかったけれど、火が付いたように泣いているから手に負えない。
周囲の視線はこちらに向いているし、とにかくうるさくて困る。
『お願い、泣かないで教えて。ママはどこ?』
ハンカチで少女の涙を拭っているとしゃくり上げながらもいくつかの言葉を発した。
うーん、何が言いたいのかさっぱりわからない。
イタリア語と英語が複雑に混じり、おまけに幼児語でなまってるとか三重苦の言葉にこっちが泣きそうになる。
おまけに専務は相当イライラしているし。
「専務、もうちょっと待って下さい」
聞き取れたのは『マンマ』とか誰でも知っていそうな言葉ばかり。いくつかの単語はわかるのだけれど、なぜここに来たのかとか、親はどこにいるのか、大事なことがわからない。
とにかく泣き止んで欲しい、こっちまでイライラしてくる。
日に日に窶れていく康ちゃん。
それでも何かに取り憑かれたように仕事をしている。
心配で堪らない。
だけど、私からの連絡は全て拒否されたかのように返事がこない。
実家である久保山家にも顔を出していないのだとか。
私は無理やり約束させられた決まりごとのため、一人暮らしの部屋で暮らしている。
1人って寂しい。
史也さんは更に忙しくしていて、連絡するのも申し訳ないくらいいつも仕事に追われている。
最近は健斗兄さんも残業続きで週末も史也さんを伴いパーティーに出席することもあるらしい。
私だけが同じところで動いていない。取り残されたような焦燥感で胸が切なくて苦しい。
…先輩秘書と近所のカフェにランチに行こうとエントランスを歩いていると、外国人の幼い子どもを連れた専務に呼び止められた。
「下平さん、ちょうど良かった。君、確かイタリア語が出来たよね。ちょっと手伝ってくれないか」
「ええ、私でよろしければ」
どうしたというのだろう。
よく見れば、子供は幼稚園児くらいの女の子で両目に涙をためている。この子の保護者はどこにいるのだろう。周りを見てもそれらしき人はいない。
「ここまでひとりでタクシーに乗ってきたらしいんだ」
「ひとりでですか?」
「ああ、タクシーの運転手の話では名刺を出して泣きながら連れて行って欲しいと言ったのだと。周りに大人がおらず困った運転手が連れてきたと言うんだがね。確かに名刺は私のものだけど、どこのお宅のお子さんなのか私には心当たりがなくてね。おまけに何を言ってるのかさっぱりで」
専務が困ったように少女の顔をのぞき込むと、少女はびくりと身体を震わせてしゃくり上げた。
「専務~泣かさないで下さいよ」
専務秘書がはあっとため息をついた。
「まさか、隠し子じゃないですよね」
「やめてくれよ。そんなはずないじゃないか。わたしは妻一筋だし、あり得ないから」
専務秘書に疑いの眼で見られた専務は「下平さん、この子から事情を聞いてくれないか。英語ならともかくイタリア語なんてさっぱりで」と頼み込んできた。
わかりました、と言ったものの子供は得意じゃない。さっさと終わらせてこの場から逃げようと決める。
『あなたのパパかママはどこにいるの』
少女は無言で握りしめてくしゃくしゃになった名刺を私に押しつける。
名刺を広げると、それはやはり専務のもので。私と専務秘書の視線は専務に向かう。
「だから違うと言ってるだろう!」
専務の大声に少女が泣き出した。
しくしくと泣いてくれたのならよかったけれど、火が付いたように泣いているから手に負えない。
周囲の視線はこちらに向いているし、とにかくうるさくて困る。
『お願い、泣かないで教えて。ママはどこ?』
ハンカチで少女の涙を拭っているとしゃくり上げながらもいくつかの言葉を発した。
うーん、何が言いたいのかさっぱりわからない。
イタリア語と英語が複雑に混じり、おまけに幼児語でなまってるとか三重苦の言葉にこっちが泣きそうになる。
おまけに専務は相当イライラしているし。
「専務、もうちょっと待って下さい」
聞き取れたのは『マンマ』とか誰でも知っていそうな言葉ばかり。いくつかの単語はわかるのだけれど、なぜここに来たのかとか、親はどこにいるのか、大事なことがわからない。
とにかく泣き止んで欲しい、こっちまでイライラしてくる。