彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
母親の方もいなくなった娘を探していたようで、二人とも泣きながら手を取り合って帰って行った。

母親は娘の好きなスイーツを買いにちょっと出掛けただけのつもりで、シッターもいるから大丈夫だと思っていた。
娘の方は慣れないホテルのベッドで目覚めたら誰もいない。シッターはたまたま腹痛でトイレにこもっていたらしい。

ーーーこうして専務の隠し子騒動は収まったのだけど、私はすっきりとしなかった。
同期の佐本さんに格の違いを見せつけられたような不快感だけが残る。

佐本さんは谷口早希の友人だ。
新卒の頃から二人でいるところをよく見かけていた。

「はあ。さすがは海事が誇る薔薇の花だったな」
専務は感心しきりだ。

「私も彼女を近くで見たのは初めてですけど、ホントに美人さんでしたね。噂にきく薔薇のトゲなんてなかったし、子供好きなのかしら。でも後でクリーニング代、お渡ししませんと。お菓子もつけておこうかしら」
専務秘書もすっかり佐本さんが気に入ったようだ。

「ぜひ頼むよ。彼女また新しく仕事をとってきたらしい。しかも新規分野開拓だというから恐れ入る。有能な部下の自慢で江本部長がまんじゅうみたいな鼻を高くしてたから笑ってしまったよ」

その本人はもうとっくに自分のフロアに戻っていた。何でもこれからカナダの支社とオンライン会議の予定があるとかで。
社内で1,2を争うほどの美人で、仕事も出来る、おまけに頭も切れて優しいって・・・。まるで敵わない。

私はなんの役にも立たなかった。
自分はきれいで学歴だってある、自分に自信があっただけにプライドはずたずただ。
激しい無力感。

佐本さんに恨みはないけれど、佐本さんがあの谷口早希の友達というだけで彼女のことも嫌いになりそうだ。

ツンとすました美人だと思っていたけれど、今日の佐本さんはきれいでしかも保育士さんのような優しさで子供に接していた。
イライラしてる専務にひるむこと無く対応していたし、むしろ堂々としていた。

史也さんもこんな女性のことを好きになるんだろうか。

ーーー胸が痛い。
何も出来ない、自分が嫌い。



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