彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
海事のレストコーナーでコーヒーをご馳走になってから私は彼女のことを少し調べていた。
本物の彼女は私が知っている『佐本由衣子』とは少し違った。
噂と違う。
彼女は自立していて努力を惜しまず、孤立しても負けない精神力を持ち、かといって協調性がないわけでも無く、色仕掛けで仕事をとるわけでは無く、女性らしい気配りをするーーー谷口早希の友人というカテゴリーから外してみると、とにかく素敵な女性だった。
すっかり佐本ファンになってしまった私だけど、忙しすぎる彼女とは中々時間が合わずゆっくりショッピングに行くことが出来ない。
次はロシアに行くから防寒も兼ねた靴をと言われれば雪と氷に強い素材を調べたり、この後流行りそうなデザインも気になってくる。
お気に入りのショップを回り情報収集していると、たまたま居合わせた雑誌の編集者と知り合いになりその関係でスタイリストさんを紹介してもらった。
そういったことを繰り返していくうちに、いつの間にか私は康ちゃんに連絡を入れることはおろか久保山の家に泊まりに行くこともなくなっていたことに気がついた。
康ちゃんは先週から地方の会社に行っている。
以前より顔色は回復していたから多少忙しくても大丈夫だろう。
谷口さんとのことは気にならないといったら嘘になるけれど、私はただの従姉妹であってもちろん妻ではない。
妻は離婚したら他人になるけれど、私とは他人になることはない。
私が康ちゃんに感じていたのはただの執着だった。恋愛感情なんてなかったし。
それを教えてくれたのは健斗兄さん夫婦だった。
健斗兄さんのところの長男は11月8日、次男が11月10日生まれと二人の誕生日が近い。
その子ども達にちょっと早めの誕生祝いを持って久しぶりに健斗兄さんのお宅にお邪魔したときのこと。
リビングに入りなり健斗兄さんはむっとした顔を隠さないで
「依存するなとは言ったけど、疎遠になれとは言ってないぞ」
と怒り出したのだ。
まあまあと奥さんの小百合さんが宥めてくれたけれど、小百合さんも苦笑している。
「このひとね、妹だと思ってた薫ちゃんがいきなり兄離れしちゃってずっと気を揉んでたの。はげちゃったら薫ちゃんのせいね」
「え、はげたの?」
「はげてないっ!」
健斗兄さんが大声を出して立ち上がる。
「あーびっくりした。母方は大丈夫だけど、父方の久保山家には大叔父様っていう蛍がいらっしゃるものねえ。一瞬本気にしちゃった」
けらけらと笑うと二人とも驚いたように目をぱちぱちとさせた。
「薫、明るくなったな。康史がいなくなってどうなるかと思ったけど、執着する相手がいなくなって却ってよかったんじゃないのか」
「執着?」
「そうだぞ、お前がしてたのは捨てられまいとしがみつく雛鳥みたいなもんだった。俺たちは家族だ。何があってもお前を見放さないと言っていたのにどうにも理解しないお前がマジで心配だったよ」
「そっかーーーごめん」
健斗兄さん、本気で心配してくれたんだ。
なんだか申し訳なくて顔を上げられない。
「親父とお袋も心配してた。でも、林に頼ってくるまで極力手を出さないで欲しいって言われて我慢しているんだ」
あー、そうなんだ。やっぱりね。たまに顔を出したときの何か言いたげな様子は普通じゃなかったもん。
伯父さま、伯母さまも林さんに説教されたのか。
できの悪い姪のせいで申し訳ないという思いで胃がしくしくする。
本物の彼女は私が知っている『佐本由衣子』とは少し違った。
噂と違う。
彼女は自立していて努力を惜しまず、孤立しても負けない精神力を持ち、かといって協調性がないわけでも無く、色仕掛けで仕事をとるわけでは無く、女性らしい気配りをするーーー谷口早希の友人というカテゴリーから外してみると、とにかく素敵な女性だった。
すっかり佐本ファンになってしまった私だけど、忙しすぎる彼女とは中々時間が合わずゆっくりショッピングに行くことが出来ない。
次はロシアに行くから防寒も兼ねた靴をと言われれば雪と氷に強い素材を調べたり、この後流行りそうなデザインも気になってくる。
お気に入りのショップを回り情報収集していると、たまたま居合わせた雑誌の編集者と知り合いになりその関係でスタイリストさんを紹介してもらった。
そういったことを繰り返していくうちに、いつの間にか私は康ちゃんに連絡を入れることはおろか久保山の家に泊まりに行くこともなくなっていたことに気がついた。
康ちゃんは先週から地方の会社に行っている。
以前より顔色は回復していたから多少忙しくても大丈夫だろう。
谷口さんとのことは気にならないといったら嘘になるけれど、私はただの従姉妹であってもちろん妻ではない。
妻は離婚したら他人になるけれど、私とは他人になることはない。
私が康ちゃんに感じていたのはただの執着だった。恋愛感情なんてなかったし。
それを教えてくれたのは健斗兄さん夫婦だった。
健斗兄さんのところの長男は11月8日、次男が11月10日生まれと二人の誕生日が近い。
その子ども達にちょっと早めの誕生祝いを持って久しぶりに健斗兄さんのお宅にお邪魔したときのこと。
リビングに入りなり健斗兄さんはむっとした顔を隠さないで
「依存するなとは言ったけど、疎遠になれとは言ってないぞ」
と怒り出したのだ。
まあまあと奥さんの小百合さんが宥めてくれたけれど、小百合さんも苦笑している。
「このひとね、妹だと思ってた薫ちゃんがいきなり兄離れしちゃってずっと気を揉んでたの。はげちゃったら薫ちゃんのせいね」
「え、はげたの?」
「はげてないっ!」
健斗兄さんが大声を出して立ち上がる。
「あーびっくりした。母方は大丈夫だけど、父方の久保山家には大叔父様っていう蛍がいらっしゃるものねえ。一瞬本気にしちゃった」
けらけらと笑うと二人とも驚いたように目をぱちぱちとさせた。
「薫、明るくなったな。康史がいなくなってどうなるかと思ったけど、執着する相手がいなくなって却ってよかったんじゃないのか」
「執着?」
「そうだぞ、お前がしてたのは捨てられまいとしがみつく雛鳥みたいなもんだった。俺たちは家族だ。何があってもお前を見放さないと言っていたのにどうにも理解しないお前がマジで心配だったよ」
「そっかーーーごめん」
健斗兄さん、本気で心配してくれたんだ。
なんだか申し訳なくて顔を上げられない。
「親父とお袋も心配してた。でも、林に頼ってくるまで極力手を出さないで欲しいって言われて我慢しているんだ」
あー、そうなんだ。やっぱりね。たまに顔を出したときの何か言いたげな様子は普通じゃなかったもん。
伯父さま、伯母さまも林さんに説教されたのか。
できの悪い姪のせいで申し訳ないという思いで胃がしくしくする。