彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
remorse 稔
…元カノが結婚するらしい。
相手は大企業の副社長なんだと。
ご親切に大学時代のサークルの同級生の山本が教えてくれた。
「まさか、お前が谷口捨てて里美を選ぶとは思わなかったわ。あんなに追いかけられたらわからんでもないけど。里美は顔は可愛いからな」
よく知ってるな、と言うと里美がob会のグループラインで『稔先輩と結婚しまーす!』とぶっこんでいたらしい。
里美との結婚話はとうの昔に無くなっていたが、どうやらそれは知らないらしい。山本の言葉で訂正する気も無くなった。
放置しておけばそのうちそれもなかったのだと噂になるだろうか。
妊娠していない確認がとれて以降、里美とは会っていない。
両親への挨拶も指輪の購入も式場の予約もまだだったのは幸いだった。あと1週間遅かったら、里美の実家に挨拶に行っていただろうし指輪も購入していたはずだ。
大学のサークルのOB会にはしばらく顔を出さないようにしよう。早希のことも里美の話もしたくない。
あの頃どうして里美の虚言を信じたのか、自分の愚かさを呪うしかない。
山本が焼き鳥を頬張りビールを呷る。
「ま、谷口はお前と別れて正解だったよな。天下のアクロスコーポレーションの副社長と結婚するっていうじゃないか。どこのプランナーが仕切るのか披露宴をどこのホテルでやるのか、今ウェディング業界が目の色変えてるぜ」
そうか…
早希は結婚するのか。
アイツに別れを告げてからもう1年。
正直、後悔していた。
なにも誕生日に予約していたホテルで別れ話をする必要はなかったんじゃないか。
あんなに冷たい言い方をする必要はなかったんじゃないか。
別れ話をした時、
本当はアイツに泣いてすがって欲しかった。
『別れたくない』と言って欲しかった。
…そうしたら、何かが変わったのか、今となってはわからないけれど。
少なくともあんなに傷つけるひどい別れ方にはならなかったかも。
どのみち今更だが、
謝りたいという気持ちはあって、
それは日に日に膨らんでいた。