彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~

今度こそ勝つ、そう意気込んで来たもののーーー

「通算成績は俺の勝ちだな。全部足して総合点にしてもいいけど、それでも麻由子は勝てないんじゃない」

きいいいいいいー
また負けた。

「あんた、カラオケなんてほとんど行かないって言ってなかった?」

「言ったけど」

「それで何で私よりうまいのよ・・・っていい、言わないで。聞かない、聞かない。これ以上私の心を抉るのはやめて」
両耳を塞いで首を横に振った。

くっそー、本当に可愛くない。

健斗はまだ中2なのに、高3の私が何をしても全く勝てない。

いや、勝てるものもあったのだ。
健斗が初めてのものなら。

例えば、オセロ、小学生の健斗相手に初めは勝てたのだ。健斗は慣れたらあっという間に私を瞬殺。次はチェス。そして百人一首。
中学生になった健斗は無敵。
ババ抜きも人生ゲームも勝てやしない。

今日はジェンガとテレビゲームをしたけど、やっぱりダメ。

健斗は勉強もスポーツも出来る万能型の天才だ。

勉強は中2にしてもうそのまま大学受験でいいんじゃないかなってほど進んでるし、テニスは全国大会常連だし。先月陸上部に頼まれて駅伝も出てたし。
語学の才能もありもう嫌みかってくらい何でも出来る。

ーーーただ、昔から健斗は感情の起伏が小さくてご両親が心配している。

喜怒哀楽がないわけじゃない。
あるんだけど、なんというか淡々としていてわかりにくい。
天才だからか同世代の男子が馬鹿なことをしてても同調することもなく眺めているだけ。
家庭でもほとんどわがまま言わないらしい。

ま、健斗の家には8コも年の離れた康史という弟がいて、これがなんとも可愛い。でも喘息という持病があって親の世話が必要になることが多かった。
成長と共に落ち着くと聞いているけれど、幼い康ちゃんが成長する頃に健斗はもう大学生じゃないだろうか。

そんな健斗の情緒的なものを心配した健斗のお母さんが相談したのが家族ぐるみで付き合いのあるうちの母親だった。
母親同士が幼馴染みなせいでもともと頻繁に行き来があり、お互いの家庭事情もある程度わかっているから気やすかったのだろう。

「だったらうちの麻由子を健ちゃんの子どもらしさの家庭教師に派遣すればいいわ。元々姉弟みたいなものだし、お騒がせ娘だけど役に立つと思うの」とうちの母親が言い出して私が当時まだ小学生だった健斗の先生(?)になったのだけど。
ちなみに私もまだ中学生だった。

ーーーそれから4年。
何をしても勝てないっ!


ひーひー怒りながら2個目のミントアイスを食べていると、
「食べるか怒るかどっちかにしないと誤嚥するよ」
冷静な健斗がクスクスと笑っている。


私は思うのだ。
健斗になにか問題があったわけじゃない。
同年代とだって騒いだりしないだけで、楽しんでないわけじゃない。
ご両親には康ちゃんの世話が忙しいだろうからと以前は多少遠慮してるところがあったかもしれないけど、今はなんとも思っていないだろう。
わがままを言わないんじゃなくて、現状、わがままを言う必要がないんじゃないかって。

ひねくれてはいるけれど、感情表現してないわけじゃない。
わたしに対しての感情表現は豊かだし。

私も頼まれたから健斗のところに来ているわけじゃない。
幼馴染みの健斗はかわいい弟だ。
数学の宿題を教えてもらうために通っているわけじゃない・・・たぶん?


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