彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~

「さて、麻由子ちゃんは健斗に勝ちたいんだったよね。ざっと社長から話は聞いているけど、今までの経過を教えてくれる?」

どうやら本気で向き合ってくれるらしい。
だったらブレーンでも軍師でも指南役でも何でもいい。私は健斗に勝ちたいし、将和さんとの接点も欲しい。
いや、接点が欲しい。

再会してから寝ても覚めても私の頭の中は将和さんで埋め尽くされているのだ。
小学生の頃の憧れのお兄さんがこんな大人イケメンになって現れるとは思いもしなかった。
しかも、独身だって。

ただ、問題は年齢差。私はもうすぐ18で、将和さんは30か31。
一回り違うのだ。
私がもっと年をくっていたら一回り違いのカップルなんてよくあるパターンなんだろうけど、残念ながらこちらはまだ未成年。
青少年健全育成なんとやらって厄介なものもあるし。

「ーーー麻由子ちゃん?」

はっとして意識を戻した。いかんいかん。

「ぼーっとしてごめんなさい。今までの経過でしたね」
気持ちを切り替え、自分の得意なもので健斗が初めてなら初回は勝てるのに、ということから今までやってきたものの話をした。

「健斗が初見のものかーーーなかなか難しいな」

うーん、と両手を組んで目を閉じている将和さんをチャンスとばかりにじっくりと観察させてもらう。

うわ、睫毛長い。すらりとした鼻すじに引き締まった小鼻。唇は厚すぎず薄すぎない。ひげは濃くなさそうだし、喉仏が超セクシー。

じーっと見つめていると不意に将和さんが目を開けてバッチリ目が合ってしまった。慌てて目をそらしたけれど、気まずいことこの上ない。

「ちょっと待っててね」
対する将和さんは何事もなかったかのように席を立ってリビングを出て行ってしまった。階段を上っていく音がするから何かを取りに行ってくれたんだろうか。

その間に将和さんのお母さんが紅茶とクッキーを持ってきてくれたのでありがたくいただくことに。

待っている間に共通の話題で盛り上がってしまった。

「・・・そうなのよ、それで先生のお宅の猫ちゃんとわんちゃんがお教室に乱入しちゃって追いかけっこが始まってね。それで猫ちゃんがあの芝山さんの背中を踏み台にしてジャンプしたものだから芝山さん、顔から畳にこけちゃって~」

「あら~あの芝山さんが顔からですか。ふふ、それは私もちょっと見たかったです」
「それでね、それを見た沼田さんが吹き出したものだから芝山さんが怒っちゃって。でも、また走り回っていた猫ちゃんが芝山さんの頭を足場にジャンプして~」
「えええ~」

想像しても笑える。
あの現職国会議員の奥様の芝山さんを蹴飛ばして転ばせ、頭にキックしただなんて猫ちゃんは勇者だ。最高。
私も見たかった。

芝山さんは悪い人じゃないのだけれど何かと「うちの主人がーー」「こちらの世界じゃーー」って言うし、先生のお手伝いは一切せず、片付けも他の人に押しつけるからお教室に通っている人たちからの評判がよくない。
さぞかしみんなの溜飲が下がったことだろう。

折しも、芝山さんのご主人はお仕事で動物愛護法に携わっているから、もちろんその奥様は猫に蹴飛ばされ踏みつけられても反撃できないだろうし。
うふふふふ。
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