彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
山本と別れて一人飲み直しに向かう。
「バーボン、ロックで」
「かしこまりました」
最近通うようになったこのバー。
会社の最寄り駅からは離れていて知人に会う可能性が低いこと、打ちっぱなしのコンクリート壁に天然木の一枚板のバーカウンターというなんともちぐはぐなインテリアも気に入っている。
1人まろやかなアルコールに酔っていると、ひとときストレスから逃れられる気がする。
大学の後輩、しかも同じ会社の女と恋愛関係になったのは失敗だった。
里美というあざとく強かな女に騙された自分はどこまでも愚かだった。
何年も可愛らしくひたむきに恋心を向ける女を装いそばにいた里美。一方、腰掛けだと言いながら仕事が忙しくなかなか会う時間が作れないという恋人の早希。
早希の就職先は彼女より二年先に卒業した俺が採用されなかったアクロスコーポレーションだったこともあり、プライドが傷ついていたのは事実だ。
心の隙間を里美に狙われたなんて言い訳でしかない。
早希を裏切ったのは確かに俺自身。
挙げ句捨てられたのは早希じゃなくて俺。
社内では里美と婚約破棄をした不実な男として噂になっているが、里美自身も婚約破棄された女として噂されている。
かつては友人だったはずの萌絵には遠巻きにされているらしい。もう1人の友人弥生も産休後育児休暇でいない。
それも自業自得だと思ってしまう。
「おかわりを」
グラスを指先で軽く押し出すと、バーテンダーが軽く微笑み頷いた。
「あれ、松浦さん?」
「え、綿貫さん?」
二つ隣のスツールに腰掛けた男性に声を掛けられ、振り向くと以前仕事で世話になった取引先の社員、綿貫さんがいた。
「お一人ですか?」
はい、と頷くと自分も一人なので良ければと誘われ、一緒に飲むことになった。
「綿貫さんは出張でこちらに?」
綿貫さんの会社は大阪だ。
「いいえ、実はあの会社辞めたんです。あの時のウチの部長、大崎が独立することになって俺も連れてってもらったんですよ。今はここに」
胸元から名刺が差し出され、そこに書かれた文字を凝視する。
「・・・広島ですか」
「はい、広島を拠点に、今後は新潟、名古屋にも拡大していく予定です」
「すごいですね。この短期間での事業拡大」
「・・・松浦さんも一緒にやりますか?」
は?綿貫さんの言葉に目が点になった。
「興味があれば是非ご一緒に」
「本気ですか」
「ええ、あなたが本気なら、ですが」
綿貫さんが口角を上げるが、目の奥は笑っていない。
「やる気があるのなら私から社長の大崎に話をします。ーーああ、でも松浦さんはご結婚されたばかりでしたか。あの頃奥様は妊娠中でしたよね。お子さんが小さいと転職して引っ越しは厳しいでしょうね」
ああ、その話か。
この人には話をしてもいい。というか話すのが筋かもしれない。
そう、この綿貫さんの前に勤務していた会社があの時の俺の大阪の出張先だった。
「実は、婚約者の妊娠が嘘だったことがわかりまして。あの日、大崎部長や綿貫さんがが早く帰るように言ってくださったおかげです。それがきっかけで破談になりまして、私は今も独り身です」
「そうですか。それではーーー」
「バーボン、ロックで」
「かしこまりました」
最近通うようになったこのバー。
会社の最寄り駅からは離れていて知人に会う可能性が低いこと、打ちっぱなしのコンクリート壁に天然木の一枚板のバーカウンターというなんともちぐはぐなインテリアも気に入っている。
1人まろやかなアルコールに酔っていると、ひとときストレスから逃れられる気がする。
大学の後輩、しかも同じ会社の女と恋愛関係になったのは失敗だった。
里美というあざとく強かな女に騙された自分はどこまでも愚かだった。
何年も可愛らしくひたむきに恋心を向ける女を装いそばにいた里美。一方、腰掛けだと言いながら仕事が忙しくなかなか会う時間が作れないという恋人の早希。
早希の就職先は彼女より二年先に卒業した俺が採用されなかったアクロスコーポレーションだったこともあり、プライドが傷ついていたのは事実だ。
心の隙間を里美に狙われたなんて言い訳でしかない。
早希を裏切ったのは確かに俺自身。
挙げ句捨てられたのは早希じゃなくて俺。
社内では里美と婚約破棄をした不実な男として噂になっているが、里美自身も婚約破棄された女として噂されている。
かつては友人だったはずの萌絵には遠巻きにされているらしい。もう1人の友人弥生も産休後育児休暇でいない。
それも自業自得だと思ってしまう。
「おかわりを」
グラスを指先で軽く押し出すと、バーテンダーが軽く微笑み頷いた。
「あれ、松浦さん?」
「え、綿貫さん?」
二つ隣のスツールに腰掛けた男性に声を掛けられ、振り向くと以前仕事で世話になった取引先の社員、綿貫さんがいた。
「お一人ですか?」
はい、と頷くと自分も一人なので良ければと誘われ、一緒に飲むことになった。
「綿貫さんは出張でこちらに?」
綿貫さんの会社は大阪だ。
「いいえ、実はあの会社辞めたんです。あの時のウチの部長、大崎が独立することになって俺も連れてってもらったんですよ。今はここに」
胸元から名刺が差し出され、そこに書かれた文字を凝視する。
「・・・広島ですか」
「はい、広島を拠点に、今後は新潟、名古屋にも拡大していく予定です」
「すごいですね。この短期間での事業拡大」
「・・・松浦さんも一緒にやりますか?」
は?綿貫さんの言葉に目が点になった。
「興味があれば是非ご一緒に」
「本気ですか」
「ええ、あなたが本気なら、ですが」
綿貫さんが口角を上げるが、目の奥は笑っていない。
「やる気があるのなら私から社長の大崎に話をします。ーーああ、でも松浦さんはご結婚されたばかりでしたか。あの頃奥様は妊娠中でしたよね。お子さんが小さいと転職して引っ越しは厳しいでしょうね」
ああ、その話か。
この人には話をしてもいい。というか話すのが筋かもしれない。
そう、この綿貫さんの前に勤務していた会社があの時の俺の大阪の出張先だった。
「実は、婚約者の妊娠が嘘だったことがわかりまして。あの日、大崎部長や綿貫さんがが早く帰るように言ってくださったおかげです。それがきっかけで破談になりまして、私は今も独り身です」
「そうですか。それではーーー」