彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
春一番
都内の超高級ホテルのパーティー会場。
私はその端っこでどうしようもなく苛ついていた。
「どいつもこいつも美男美女ばっかり」
ちっと小さく舌打ちをすると隣からはため息が聞こえた。
ああ、竜は図々しくもあの姫に憧れていたんだっけ。そりゃあショックよね。知らない相手に嫁いだのならまだしも、よく知ってる人が姫の旦那なんだから。
「ねぇ、それって悔しいの?」
「はぁ?」
「だから、悔しいのかって聞いてんの。姫が知り合いにとられちゃって」
「高嶺の花が結婚したからといって悔しいとかとられたなんて感情はないよ」
竜之介は肩をすくめただけで視線は真っ直ぐスレンダーラインのドレスを身に纏った薔薇姫に向けていた。
『アクロスの薔薇の花』『薔薇姫』こと海外事業部の佐本由衣子さんが同期の男性と電撃入籍したのは今から3ヶ月ほど前の話だ。
社内一の美人営業部員の結婚に涙したのは竜之介だけではない。
社内のみならず、近隣の会社、国内外の取引先まで何十人、何百人という数の男達が泣いたんじゃないだろうか、と思うほど佐本さんの人気は高い。
勤勉で努力家で容姿も整ってるなんて何の恋愛ドラマのヒロインだよ、って突っ込みたくなるけれど、現実ここにこうして存在している。
相手の男性というのがまた竜にとっては問題だ。
国内営業部の高橋良樹さんは竜の伯父さんの直属の部下で、しかもアクロスコーポレーションの関連企業THコーポレーションの御曹司なのだという。
竜の伯父さんは営業部長から常務になった人で、優れた嗅覚を持ち有能な部下を育成することに定評がある。
その常務のご自慢の部下だって言うんだから高橋氏ってさぞかしすごい人なんだろう。
竜はその高橋氏とは幼い頃からの知り合いなんだとか。
アクロスコーポレーションの社長を含め、お互いの親の実家が近所で友人だとか何とかっていう繋がり。
だから会社関係の付き合いとしてだけではなく、個人としても知人な竜は今日こんなご立派な結婚披露パーティーに呼ばれているってわけ。
ちなみに、私が参加しているのは知人としてではなく、仕事だからだ。
アクロスコーポレーションの受付で働いている私を含めた受付嬢たちは常務からこの結婚披露パーティーの受付を頼まれた。
会社関連の招待客が多いから私たちのような受付のプロが役に立つのだろう。
確かに受付に立っていて超絶緊張した。
イタリアの大企業の経営者を始めとした国内外の有名な人たち。
新郎新婦の同世代の友人ですらお綺麗な人たちが多くて。
途中でこれってどこの企業の何のパーティーだっけって思ったわ。
一緒に受付に立っていた同僚たちは一仕事終えてもうしっかりパーティーを満喫している。
こんなセレブなパーティーに参加する経験なんて今後私たちにはもうないだろう。