彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
「まあ、新郎新婦どちらも恨みを買っているようですから、みんなの分まで幸せになってくださいね」

「ふふふ、ありがとう」
姫は隣に立つ旦那様の顔を見上げにこりと微笑み、それを見た旦那様は姫の腰に回した腕に力を入れて更に彼女を引き寄せた。

熱々のイチャイチャだ。
二人とも悪気はないんだろうけど、竜の目の前でやるのはやめていただきたい。

「私の引き継ぎが終わるまであと一ヶ月よろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」

薔薇姫が竜に微笑みかけ、竜も口角を上げた。

見ているこっちの胸が痛いよ。


「三嶋さん」

薔薇姫に名前を呼ばれ驚いて持っていたグラスを落としそうになる。
私の名前、知ってるの?

「今日はお休みの日なのにお仕事をお願いしてしまってごめんなさいね。本当に助かりました。三嶋さん達のプロフェッショナルな対応のおかげでお客様の受け付けから誘導がとてもスムーズに進んだって聞いてます。さすがアクロスの誇る会社の顔の皆さんですね」

正面から褒められてじわじわと顔が熱を持ってくる。
会社の顔というなら薔薇姫のことだと思うけれど、会社に来た訪問客が一番初めに出会う人物という意味であれば私たち受付に立つ者たちのことだろう。

私たちは自分の仕事に自信を持っている。
人を覚えること、ビジネスマナー等々。
でも、全てにおいて敵わないと思う薔薇姫に手放しで褒められるなんて。

「ご無理を聞いていただき本当にありがとうございました」

薔薇姫が私に向かって頭を下げ、高橋さんも「助かったよ。どうもありがとう」と共に頭を下げてくれる。
想定外の展開に私の脳内が混乱する。

たぶん、「いいえ、とんでもございません」とか「お二人のお祝いの場に私が少しでもお役に立てたのなら光栄です」とか何とか言ったんじゃないだろうか。テンパってしまって記憶がないのだ。
< 53 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop