彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
「三嶋、まだ残る?帰るなら送るけど」
竜の声に我に返った。
同僚達はもう少しパーティーを楽しむことに決め会場に戻るという。
「疲れたから帰りたい。送ってくれる?」
竜に視線を向けると、頷きが戻ってきて安心する。
その場で同僚達と別れ、竜とクロークに寄ってエントランスからタクシーに乗り込んだ。
「竜は先に帰って大丈夫だったの?常務に挨拶した?」
「挨拶も何も、伯父はとっくに帰ったから。ああ、伯母はまだいたから先に帰ることは伝えたよ」
「え?」
「あのタヌキにしては今日はよく我慢した方だ。会場に1時間もいてせっせと挨拶交わしてたよ。流石に大事に育てた部下で友人の息子の結婚だからね、珍しく社交してたな」
・・・そうですか。
タヌーーげふん。神田常務は得体の知れない人だ。
丸っこくてぷくぷくほっぺでつぶらな瞳。見た目は癒やし系だけど、先代社長の懐刀として会社を急成長させた立役者のひとり。
そんな人の血を引く竜は血縁を隠しているにもかかわらず社内で注目されている。
入社時は広報に所属していたのにすぐに花形の海外事業部に異動して早々に結果を残している。
そして一ヶ月後には旦那さんの地元にあるうちの支社に転勤することになっている薔薇姫。
薔薇姫の抱えていた顧客は多く、竜がその後継者のひとりに選ばれたのだ。
あの薔薇姫の担当していた企業の一部を竜が引き継ぎすることになった。
そう、竜はあの薔薇姫と毎日一緒に仕事をしている。
「あと一ヶ月だね」
「そうだな」
何が?と聞き返さなかった竜。
竜の心の中は薔薇姫でいっぱいなんだろう。
「三嶋は今まで高橋先輩と接点あった?」
そういえばって感じで竜がこちらを見た。
「基本、挨拶程度ね。個人的にはなし。薔薇姫宛のお客様が来たら案内するし、エントランスの接客コーナーの面会だったらお茶出しすることもあったかな」
ふうん、とか、ふむとかそんな感じの声がしたと思ったら
「で、三嶋はどう思った?今日の高橋先輩を見て」
と答えにくい質問をしてきた。
正直なところ、返事をしたくない。
ちろりと竜の顔を見ると私の答えがわかっているみたいにどこか誇らしげな表情をしている。
薔薇姫はあなたのものじゃないんですけど。
「・・・文句なしに最上級の女性だと思ったわ。人脈もセンスも心配りも何もかも。あんなに完璧だから妬まれて悪く言われるんだってこともわかった。実際に彼女と関わったら妬むかファンになるかどちらかね」
今日来た同僚達は全員もれなくファンになったみたいだけど。