彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~

それから信号にも渋滞にも引っかかることなくすぐにマンションに着いた。

タクシーのスライドドアを開けてもらい
「じゃ、送ってくれてありがとう」と下りようとすると、なぜか竜も車から下りてくる。

タクシー料金はネット決済がされていたらしくタクシーはそのまま走り去った。

どうして一緒に下りたの、と聞く前に
「コーヒーご馳走して」
と竜が私の肘を掴んだ。

「い、いいけど」

今までも何回か送ってもらったことはあったけど、部屋に上げるのは初めて。
竜だって今までそんなこと言ったことなかったし。

不機嫌な竜の隣はなんだか居心地が悪くて、エレベーターの中でも落ち着かなかった。

鍵を開けて「どうぞ」と部屋に招き入れる。

2部屋しかないけれど、2部屋あってよかった。

今日、出かける前の支度はバタバタだった。
受付嬢としてのプライドもあって完璧にしたいとメイクにヘアに着替えとバタバタしながら出かけたから寝室は見せられないほどの散らかりよう。
でも、ソファーを置いてあるもう一部屋は無事だからセーフ。



「コーヒー淹れるから座ってて」

キッチンに向かおうとして竜に背を向ける。
仕事ではいつもやっていることだけど、竜に、しかも自分の部屋でコーヒーを淹れるなんて緊張する。

竜のことが好きになってからこんな日が来るといいなと考えたことはあったけど、まさかこんな感じで実現するとは思っていない。
できればいい雰囲気でお願いしたかった。

ゴリゴリゴリ・・・

丁寧にゆっくりと手挽きのミルを回す。

ーーー竜ったら何で急に機嫌が悪くなったんだろう。

ゴリゴリゴリ

ーーー薔薇姫って呼ぶなって言うからちゃんと高橋さんって言ったし、悪口だって言ってない。

ゴリゴリゴリ

ーーーしかも来たことがないこの部屋についてくるなんて

ゴリゴリゴリ

ーーー意味わかんない。

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