彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~


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一ヶ月後、俺は会社を辞めて広島の大崎社長の下で働き出した。
東京を離れることに抵抗がなかったわけじゃないけれど、ここに来たことは後悔していない。
ここで結果を残して自分の居場所を作らねば。久しぶりに感じた仕事の楽しさ。忘れかけていた必死な感覚。
こんな自分も悪くない、そう思う毎日だ。



「ねえ松浦くん。一度聞こうと思ってたんだけど、キミって神田さんの知り合い?」
ランチミーティングの後、大崎社長がそういえば・・・と言ったのだが、神田さんという人に心当たりはない。

「神田さんってどなたですか?」

「ああそう。・・・うん、そういう感じか。いいよ、ウチは損してない。松浦君はウチの大事な戦力だよ」

何を言われているのかわからず、社長の目の奥にあるものを窺おうとじっと見つめると社長が苦笑した。

「まあいいさ、気にすることはないよ。私は松浦くんを評価してる。ただ、東京出張は今後も綿貫に任せて松浦君には別の地域を任せることにしようかなと思っただけさ。おそらくキミを東京から離したいと思った人物がいたのかもしれないし、もっと楽しい会社でのびのび働かせたほうがいいと思った人物がいたのかもしれない」

大崎社長が何を言っているのかわからない。
私は無理やり頷かなければならないわけでもなさそうだ。



…どうやら俺はどこかの誰かに東京を追い出されたらしいと知ったのは更に1年後。
ただこの転職にはなんの文句もないから俺としては感謝でしかない。
里美もいる会社で感じる人の視線にも疲れていたし、大学時代の友人知人から離れたこともいい方に働いている。

ーーただ最後に早希に会いたかった。心残りはそれだけ。




 remorse 稔

    
   終
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