彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
はあーーー
ため息をついた竜が持っていたカップをソーサーに戻すと、自分のこめかみをぐりぐりしている。
と思ったら顔を上げ、こちらをじっと見つめてきた。

「な、何?」

「ーーーちょっと確認したいんだけど」

「え?」

竜の意味不明な行動に首を傾げてしまう。

さっきのパーティーで何か悪いものでも食べたんじゃないのかしら。
急に機嫌が悪くなったと思ったら、来たこともない私の部屋に上がり込んでくるし、コーヒーも”うまい”っていったくせに飲むのをやめてこめかみ押さえてるし・・・。

「さっきから三嶋が”高橋さん”って言ってるのって誰のこと?」

「は?”姫”よ。新婦の高橋さんに決まってるでしょ。何言ってんの?」

さっきからずっとアンタも私も”姫”の話しかしてないだろーがっ。
ホントに何言ってんだ。

「紛らわしいっ」竜はちっと舌打ちした。

「はあ?竜が高橋さんのこと薔薇姫って呼ぶなって言ったんでしょ」

「言った。けどいつものスーツ姿が素敵とか女子に人気があるとか、結婚したい人ナンバーワンとか・・・てっきりそれって良樹さんのことだと勘違いするだろっ」

なぜかしかめっ面の竜の耳がほんのり赤い。

「そんなの知らないわよ。竜が勝手に間違えたんじゃない。どうしてそんなに怒るの」

怒りたいのはこっちだ。
勝手にイライラされて当たられてーーーって、なんで?

「もしかして、急に竜の機嫌が悪くなったのってーー私が新郎の高橋さんを褒めたって竜が勘違いしたから?ーーーあはははは~。なぁ~んちゃって。そんなはずないか」

あはははは・・・・あれ?
あれ?
あれ?

竜は頭を抱えて俯いていた。

やだ、体調が悪かったのか。そうならそうと早く言えばいいのに。

「竜、大丈夫?頭が痛いの?熱はない?鎮痛解熱剤はあるけど、私の持ってるやつって竜の身体に合うかな。それとも飲み過ぎ?」

俯いている竜のおでこに手を伸ばそうとして、その手を竜に止められる。

「ーー帰る」

いきなり立ち上がった竜に呆気にとられる。


帰る?
はあ、そうですか。
本当に今日の竜は訳がわからない。

「うん、わかった。気をつけてね。あ、体調悪いならタクシー呼ぼうか?」

「タクシーはいい」

不機嫌な様子の竜。
でも、帰ると行って立ち上がったくせにそこから一歩も動こうとしない。

酔ってるんだろうか。
私が見ている限りそんなにアルコールは飲んでいなかったと思ったのだけれど。

でも、憧れの女性がウエディングドレス姿で旦那さんの隣で微笑む姿はクルものがあっただろう。
でも、切ない思いは私も同じなんだから、慰めてなんてあげない。

好きな人が自分と違う人を特別な目で見つめているのを見る辛さ。

せいぜい苦しめばいい。

コイツはどうせ私のことなんて女とみていない。

高校の同級生。同じ会社の親しく話ができる知り合い。友達。

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