彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
「ホントに仕方ないねー、マー君は。仕事じゃあんなに即断即決、アクロスの子会社から独立してからはどんどん会社を大きくして今じゃ県内有数の企業に押し上げといて、愛妻にだけはとことん弱いんだから」
後悔しないでよ、とカンちゃんがポソッと小さく呟いた。
今なんて?と聞き返そうとしたところで、カンちゃんが近くにいた女性に声を掛けていた。
彼女は主催者側が用意したパーティーコンパニオンだ。
今日のパーティーには若くて可愛らしい顔をしているこの子のような女性がそこかしこにいた。
ワイングラスを手にしたコンパニオンの女性が近付いてきて
「どうぞ」と俺にグラスを差し出した。
ワインなど頼んでいないし、今は飲む気にもなれないんだが。
カンちゃんは自分は飲まないくせになぜ俺にワインなんか飲ませようとするのか、とカンちゃんの顔に視線を送るとーーーカンちゃんは腹黒い笑みを浮かべていた。
まずい、何か企んでいると思った時にはもう遅かった。
コンパニオンの女性の身体がぐらりと傾いて手にしていたワインが零れ俺のスーツにほんの少し雫がかかる。
「申し訳ございませんっ」
女性は真っ青になり、近くのテーブルにグラスを置くと、持っていたクロスで俺のスーツの胸元を拭き始めた。
「大丈夫だから気にしなくていいよ。少しかかっただけで大したことない」
「いいえ、シミになってしまいます。どうぞあちらに」
別室でしみ抜きをするからと強引に会場の外に連れ出そうとする女性にちょっと閉口する。
「ここで背広を脱いでいただくと目立ってしまいますからあちらにお願いします」
肘の辺りにしがみつかれ女性の甘ったるい香水が鼻につく。
「いや、本当に大丈夫だから」と断わると、
「あら、全然大丈夫じゃないわ」
ーーー目の前に冷たいオーラを纏った妻がいた。
「あなた、謝罪はもういいから私の夫に触らないで頂戴」
麻由子が見た者を圧倒する笑みを浮かべると女性は二歩、三歩と後ずさった。
「申し訳ございませ・・」
「ワインのしみは私が何とかします。あなたは自分のお仕事に戻っていただいて結構よ」
わかりやすく公の場で不機嫌な様子を前面に出した麻由子が俺の腕を深く組んだ。
麻由子はクールビューティーだが、普段こんな高圧的な態度はしない。社長夫人として社交の技術が高く周囲からの評判はいいのだが。
「もう皆さんにご挨拶は終わったの。帰りましょう。いいでしょ、あなた」
仏頂面の麻由子が有無を言わせず歩き出し俺もつられて歩き出した。
「はい、頑張って~」背後でカンちゃんの面白がるような声がする。
あいつ、やったなと思ったが後の祭りで、
麻由子は周囲から「高橋社長、奥様」と声を掛けられても「申し訳ございません、私たち今夜はこれでーー」と匂い立つような笑顔を向けて振り切って歩いて行く。
後悔しないでよ、とカンちゃんがポソッと小さく呟いた。
今なんて?と聞き返そうとしたところで、カンちゃんが近くにいた女性に声を掛けていた。
彼女は主催者側が用意したパーティーコンパニオンだ。
今日のパーティーには若くて可愛らしい顔をしているこの子のような女性がそこかしこにいた。
ワイングラスを手にしたコンパニオンの女性が近付いてきて
「どうぞ」と俺にグラスを差し出した。
ワインなど頼んでいないし、今は飲む気にもなれないんだが。
カンちゃんは自分は飲まないくせになぜ俺にワインなんか飲ませようとするのか、とカンちゃんの顔に視線を送るとーーーカンちゃんは腹黒い笑みを浮かべていた。
まずい、何か企んでいると思った時にはもう遅かった。
コンパニオンの女性の身体がぐらりと傾いて手にしていたワインが零れ俺のスーツにほんの少し雫がかかる。
「申し訳ございませんっ」
女性は真っ青になり、近くのテーブルにグラスを置くと、持っていたクロスで俺のスーツの胸元を拭き始めた。
「大丈夫だから気にしなくていいよ。少しかかっただけで大したことない」
「いいえ、シミになってしまいます。どうぞあちらに」
別室でしみ抜きをするからと強引に会場の外に連れ出そうとする女性にちょっと閉口する。
「ここで背広を脱いでいただくと目立ってしまいますからあちらにお願いします」
肘の辺りにしがみつかれ女性の甘ったるい香水が鼻につく。
「いや、本当に大丈夫だから」と断わると、
「あら、全然大丈夫じゃないわ」
ーーー目の前に冷たいオーラを纏った妻がいた。
「あなた、謝罪はもういいから私の夫に触らないで頂戴」
麻由子が見た者を圧倒する笑みを浮かべると女性は二歩、三歩と後ずさった。
「申し訳ございませ・・」
「ワインのしみは私が何とかします。あなたは自分のお仕事に戻っていただいて結構よ」
わかりやすく公の場で不機嫌な様子を前面に出した麻由子が俺の腕を深く組んだ。
麻由子はクールビューティーだが、普段こんな高圧的な態度はしない。社長夫人として社交の技術が高く周囲からの評判はいいのだが。
「もう皆さんにご挨拶は終わったの。帰りましょう。いいでしょ、あなた」
仏頂面の麻由子が有無を言わせず歩き出し俺もつられて歩き出した。
「はい、頑張って~」背後でカンちゃんの面白がるような声がする。
あいつ、やったなと思ったが後の祭りで、
麻由子は周囲から「高橋社長、奥様」と声を掛けられても「申し訳ございません、私たち今夜はこれでーー」と匂い立つような笑顔を向けて振り切って歩いて行く。