彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
会場を出たところで健斗が私たちを追いかけるようにして出てきた。
「麻由子、やり過ぎるなよ」
「健斗、うるさい」
「何だよ、折角いいものをやろうと思ったのに」
何?と麻由子が整った眉を寄せると、健斗は俺に向かってシュッと一枚のカードを放り投げた。
「最上階のスイート取ってあります。叱るなり、宥めるなり、可愛がるなりして将和さんがしっかり麻由子の首輪をつけておいてくださいね。ホントに迷惑なんですよ、コイツ。口を開けば、将和さんの話ばっかりで。将和さんが自分のこと見てくれないとか、康史と腕を組んでも笑って見てるばかりでちっとも焼きもちを焼いてくれないとか」
え、っと麻由子をみると、美しい顔が真っ赤に染まっていた。
「うるさい、健斗。さっさとパーティーに戻りなさい」
麻由子は俺の腕から離れスタスタと健斗の元に近付くと彼の背中をバシバシと殴っている。
こんな姿は28年前と何も変わっていない。
いつの間にか大人になって、落ち着いた美女だと周りに言われていても、中身はあの頃と変わっていない。
「将和さんのことが好きすぎるのはわかるけど、ちょっとは抑えないと」
健斗にからかわれて「ホントにやめて」と麻由子は熟れたトマトのように顔だけでなく胸元まで肌を赤くしている。
ーーーかわいい。
「健斗、ありがとう。麻由子は連れて行くから。この礼はいずれまた」
健斗はにこりと笑って会場に戻っていった。
あんなに無表情だった少年が大人の笑みを浮かべて去って行く。ああ健斗ももう二児の父だったか。
赤く火照ったようになっている妻の背中を押してエレベーターで最上階に向かった。
こんなシチュエーション以前もあったなと思い出す。
部屋に入ったところでそれまで俯いていた麻由子がガバッと顔を上げて俺のスーツの上着を剥ぎ取るように脱がせてきた。
「脱いで。早く脱いで!」
「そんなに急がなくても大してワインはついていないし、すぐに拭いたからシミにもならないと思うよ」
おとなしく脱ぐのを手伝ったのだけれど、麻由子は上着だけでなくネクタイにもワイシャツにも手を伸ばしてきた。
「これも、これも全部脱いで!」
クンクンと鼻を動かし顔をしかめている。
「もしかして俺があの女の子に触られたのが嫌だったのか?」
自分でも意地悪を言ったと自覚している。
最近の俺は自分に自信がなかった。なのに、うちの奥さんときたらーーー。
「いやよ、嫌に決まってるでしょ。あの子ったらパーティーが始まってすぐからずっとあなたの近くにいてチラチラ見ては頬を染めてたのよ。あなたのこと狙ってたんだから」
「そんな馬鹿なことを」
「馬鹿な事じゃないわよ。あなたったらいくつになってもモテるんだもん。私はいつだって一人でハラハラして。もうホントにやだ」
麻由子の切れ長の二重の目にじわりと涙が浮かんだと思ったら、脱兎のごとく走り出してバスルームに飛び込んでしまった。
勢いよく閉じられた扉の向こうからカチャリと鍵が掛けられた音がした。
「おい、麻由子?」
「もうやだ。私今夜はここから出ない」
子どもみたいな言葉に思わず吹き出してしまった。
そんな俺の声も麻由子に聞かれてしまい余計に麻由子の怒りを誘ってしまったらしく
「将和さんなんて大嫌い」そう言ったきり中なら物音が聞こえなくなってしまった。
「麻由子、やり過ぎるなよ」
「健斗、うるさい」
「何だよ、折角いいものをやろうと思ったのに」
何?と麻由子が整った眉を寄せると、健斗は俺に向かってシュッと一枚のカードを放り投げた。
「最上階のスイート取ってあります。叱るなり、宥めるなり、可愛がるなりして将和さんがしっかり麻由子の首輪をつけておいてくださいね。ホントに迷惑なんですよ、コイツ。口を開けば、将和さんの話ばっかりで。将和さんが自分のこと見てくれないとか、康史と腕を組んでも笑って見てるばかりでちっとも焼きもちを焼いてくれないとか」
え、っと麻由子をみると、美しい顔が真っ赤に染まっていた。
「うるさい、健斗。さっさとパーティーに戻りなさい」
麻由子は俺の腕から離れスタスタと健斗の元に近付くと彼の背中をバシバシと殴っている。
こんな姿は28年前と何も変わっていない。
いつの間にか大人になって、落ち着いた美女だと周りに言われていても、中身はあの頃と変わっていない。
「将和さんのことが好きすぎるのはわかるけど、ちょっとは抑えないと」
健斗にからかわれて「ホントにやめて」と麻由子は熟れたトマトのように顔だけでなく胸元まで肌を赤くしている。
ーーーかわいい。
「健斗、ありがとう。麻由子は連れて行くから。この礼はいずれまた」
健斗はにこりと笑って会場に戻っていった。
あんなに無表情だった少年が大人の笑みを浮かべて去って行く。ああ健斗ももう二児の父だったか。
赤く火照ったようになっている妻の背中を押してエレベーターで最上階に向かった。
こんなシチュエーション以前もあったなと思い出す。
部屋に入ったところでそれまで俯いていた麻由子がガバッと顔を上げて俺のスーツの上着を剥ぎ取るように脱がせてきた。
「脱いで。早く脱いで!」
「そんなに急がなくても大してワインはついていないし、すぐに拭いたからシミにもならないと思うよ」
おとなしく脱ぐのを手伝ったのだけれど、麻由子は上着だけでなくネクタイにもワイシャツにも手を伸ばしてきた。
「これも、これも全部脱いで!」
クンクンと鼻を動かし顔をしかめている。
「もしかして俺があの女の子に触られたのが嫌だったのか?」
自分でも意地悪を言ったと自覚している。
最近の俺は自分に自信がなかった。なのに、うちの奥さんときたらーーー。
「いやよ、嫌に決まってるでしょ。あの子ったらパーティーが始まってすぐからずっとあなたの近くにいてチラチラ見ては頬を染めてたのよ。あなたのこと狙ってたんだから」
「そんな馬鹿なことを」
「馬鹿な事じゃないわよ。あなたったらいくつになってもモテるんだもん。私はいつだって一人でハラハラして。もうホントにやだ」
麻由子の切れ長の二重の目にじわりと涙が浮かんだと思ったら、脱兎のごとく走り出してバスルームに飛び込んでしまった。
勢いよく閉じられた扉の向こうからカチャリと鍵が掛けられた音がした。
「おい、麻由子?」
「もうやだ。私今夜はここから出ない」
子どもみたいな言葉に思わず吹き出してしまった。
そんな俺の声も麻由子に聞かれてしまい余計に麻由子の怒りを誘ってしまったらしく
「将和さんなんて大嫌い」そう言ったきり中なら物音が聞こえなくなってしまった。