政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


飛び込み状態だったのにやけに丁寧に診てくれた整形外科の先生が処方したのは、ジェルタイプの湿布と、痛み止めの飲み薬。

私の頬に湿布を貼った蓮見さんが、その出来を確かめるようにじっと見ながら「痛みは?」と聞く。
ない、と嘘をつこうとして、それから笑ってごまかそうとして、最後は諦めて目を逸らした。

「多少はあります。今は外側っていうよりは、内側の方が痛いです。口の中切っちゃったので。しばらくは食事は右側で噛むことになりそうです」

少し笑って見せたけれど、蓮見さんは不機嫌にため息をついた。
蓮見さんが背もたれに体を預けるので、その横顔を眺め……しばらくしてから口を開いた。

「柳原さんとは、一年半前からの付き合いだったんですよね」

蓮見さんは、視線をこちらに向けないまま答える。

「ああ。だいたいが不在時に掃除に入ってもらっていたから、直接顔を合わせたのは十回程度だった。いくらハウスクリーニング会社の保障があっても知らない人間を家に入れるのは気持ちのいいものじゃない。だから最初の数回は立ち会ったが、彼女の仕事ぶりに文句はなかったから、その後からは信頼して任せることにしていた」

想像してみる。
初めて顔を合わせたときにひと目惚れしていた柳原さんは、蓮見さんに信頼されどれほど嬉しかったのだろう。

家事を任され、自分が綺麗にした部屋で蓮見さんが毎日快適に暮らす。
しかもそれが一年半も続けば、愛着も執着も湧くのかもしれない。

そして、嫉妬心も。

「柳原さんの気持ちには気付かなかったんですか?」

そこまで鈍いとも思えずに聞いたけれど、「興味がなかった」という言葉に驚く。


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