政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「興味がなかったって……」
「彼女に限ってのことじゃないが、相手がどんな感情を抱いていようと仕事さえしっかりしてくれているのであれば関係ない。それに、さっきも言ったとおり、顔を合わせる機会はそうなかった。少なからず想われているのは気付いても、放っておくのが得策だ」

そうかもしれないと半分思って、残りの半分はそんなの冷たいと思った。

ふたつの感想がだいぶせめぎ合っていたけれど、結果的に蓮見さんが柳原さんの気持ちに応えるつもりがなかったことを考えると、それでよかったのかと納得する。

そもそも柳原さんからアクションを起こしていないのだから、蓮見さんの我関せずな態度は責められるいわれはない。

〝そんなの冷たい〟は、純粋に柳原さんを思っての感想だったのか、それとも今後自分に対する蓮見さんの態度を想像しての言葉だったのか、掘り下げそうになった頭に気付いてストップをかけたとき、隣からの視線に気付いた。

すぐに視線がぶつかる。
蓮見さんの眉間には少しシワが寄り、眉尻が下がっていた。

「悪かった。彼女があそこまで暴走すると予想できなかった俺の責任だ」

申し訳なさが声に滲んでいて、慌てて笑顔を作った。

「いえ。誰もそんなの予想できないですから。それにこれは柳原さんをかばっているわけじゃなく、本当に私が転んだせいですし、蓮見さんはなにも気にしないでください」

大事になってしまって、こちらこそ申し訳ない。

「そういうわけにはいかない。傷や痕が残らないといいんだが」
「大丈夫ですよ。あまり自慢できたことでもないですけど、顔に傷つけたのは過去にも何度かあるので。普段は我慢するようにしているんですが、たまにカッとなってああいう感じになっちゃうんです」


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