政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


今日みたいに爆発したことは過去に数度ある。
当然蓮見さんは知らない時期の話なのに、彼は「知っている。中等部の頃だろ」と正解を口にした。

「兄貴が同級生にシスコンだと馬鹿にされたときも、おまえはすぐに庇うように相手の前に出た。〝兄が好きで慕って、それのなにが悪い〟と女子中学生のまっすぐな非難の眼差しを受けた相手は、バツが悪そうに立ち去った。春乃の兄貴は〝自慢の妹〟だと誇らしそうにしていたが、それが俺には信じられなかった。普通に考えて危なすぎる」
「女子中学生って……え?」

蓮見さんの口から出たのは実際にあった過去の出来事だ。

中等部の頃は、兄に会うためによく大学に忍び込んでいた。それを見た兄の同級生らしき男性に馬鹿にされたから応戦したけれど……それを蓮見さんが知っている理由がわからない。

どこかから見られていたとして、蓮見さんは兄と同じ大学だったということだろうか。
聞こうと口を開いた途端、蓮見さんが私の頬に触れる。

湿布の上から優しく触れられただけなので痛みはないけれど、絡まる眼差しがあまりに心配の色を浮かべていて目を見開いた。

「ああいうことはやめて欲しい。俺の心臓が持たない。俺の目が届かないところで、誰かに傷つけられているかもしれないと思うと気が気じゃない。勇敢なのはいい。けれど、俺の知らない場所で怪我を負うのはもうこれが最後だ」

抑えられた声なのに、とても大きな感情が込められているのがわかった。
蓮見さんが本気で心配してくれているのかはわからない。その理由だって謎だ。

でも、今目の前にいる蓮見さんの態度が嘘だとはとても思えなくて、自然とうなずいていた。


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