政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「ん……」
ゆっくりと入り込んできた舌に口の中が浸食される。
奥で縮こまっていた私の舌を、蓮見さんは誘うように優しく撫でる。甘い感覚におびき出されると舌同士が重なりわずかな水音がたった。
角度を変えながら交わされるキスに背中をぞくぞくとした感覚が這う。
次第に力が入らなくなった口がだらしなく開き始めたとき、我に返り蓮見さんの胸を押した。
まずい。これは絶対にまずい。
こんな恋人同士がするようなキスをされ続けたらほだされてしまう。
そう思い、「あの、口の中が切れてて痛いので」と適当に言い訳をして止めたけれど、蓮見さんが鼻先の距離から離れることはなかった。
「そうだな。血の味がする」
「だったらやめてくださ……」
「我慢しろ。お仕置きだとでも思え」
〝え〟と返そうとした声を封じるように再び唇を塞がれる。
そのままソファに押し倒され、焦って声を出そうとしても、そのあと散々いじられた体がいい加減ツラくて音を上げたくなっても、ずっと重なったままの唇のせいでなにひとつ言葉にならなかった。
「体がツラいだろ。シャワーなら少し休んでからでもいい」
情事後、ようやく呼吸が落ち着いた頃、私を抱き締めようとしてきた腕から逃げるようにソファから立ち上がると、そんな声がかかった。
さっきまでの感覚が余韻とは言えないレベルで体に留まっているせいで足元がふらつきそうになるのを必死に耐え、蓮見さんに背中を向けた。