政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「蓮見くんが一度春乃が働いているところを見てみたいと言ってくれたんだ。いやいや、春乃の性格上、正直少し心配もしていたんだが仲良くやってくれているみたいでよかった」
地下鉄の駅からほど近い場所にある〝レイドバッグホームズ〟本社と、その隣に建つ二棟のモデルハウス。
フットワークの軽い父が本社上階にある社長室にいる時間は極端に少ない。来客がゼロとは言わないけれど、誰かを呼ぶくらいなら自ら行く方が気が楽だし性にも合っている父がこうして社長室でお客様を接客するなんて珍しいので、きっと階下では噂になっているのだろうと想像しくらっとする。
先日から〝ロータステクノロジー〟との提携話が社内ではささやかれていたので、取締役のご子息の蓮見さんが来訪しても、提携話の信ぴょう性が高まっただけできっと社員もそこまで驚かない。
でも、私が同席していることについては……きっと様々な憶測が飛び交っている気がして、もう治ったはずの眩暈がした。
頬の湿布のせいで元から話題になりやすい状態だったのに、そこにプラスしてこれだ。厄日かと思った。
「まぁ、座りなさい」と父に着席を促され、蓮見さんの隣に腰を下ろす。
クッション性の高いひとり掛けソファはどこまでも沈むため、姿勢をよく保つのが大変だ。
そんな私の苦労なんて知る由もない父は、並んだ私たちを見て満足そうに目を細めた。
「うん。似合いのふたりだな。……まぁ、顔の湿布はいただけないが」
笑みを渋く崩した父に、蓮見さんが座り直し、もともと真っすぐだった背筋をピンと伸ばした。