政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「昔のことはもういいよ。でも、今日、私をここに呼んだことは反省してほしい。絶対に噂になってるし、お父さんと私の関係はあれだけ秘密にしてってお願いしたのに」
この時期では内示の可能性もないし、同席しているのは〝ロータステクノロジー〟の蓮見さんだ。
階下の社員はみんなして想像を働かせているだろうし、名字が同じというところから、もうきっと親子だという線で広まっている。
恨むように見ているのに、父はなにひとつ気にしていない明るい笑顔を浮かべた。
「どちらにしても結婚するんだ。式に呼ぶ社員もいるだろうし、社でお披露目の会もするつもりでいる。遅かれ早かればれるんだから今更だろう」
「結婚なんて……」と勢いで話し出してから、「なんでもない」と取り消す。
でも、そうか。このままいけば結婚することになるのか。
そしたら、父の言うように式も挙げるし、私の名字も当然変わるし、私も蓮見さんのことを名前で呼ぶようになって……と、彼とのこれからを想像した途端、鼓動が速足になった。
父が黙っていれば静かな社長室に私の胸の音が聞こえてしまいそうで、チラッと隣を見る。
いつも通り涼しい顔をした蓮見さんは、私が視線を動かした気配に気付いたのか、それとも偶然か、ほぼ同じタイミングでこちらを見た。
思いがけず重なった眼差しに、鼓動は速足どころかなかなかのスピードで走り始めるので、慌てて目を逸らす。
――破談にしてやる。
そう意気込んでからまだ一ヵ月しか経たない。
なのに当初の目的を忘れ勝手に浮かれた音を弾き出す胸を、上から力任せに押さえつけたくなった。