政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「案内してあげなさい。どうせその顔じゃモデルハウスの受付は無理だろう」と笑う父は、もう少し嫁入り前の娘の顔面に興味を持つべきだと思う。
今回は自業自得の怪我だけれど、これがもし加害者がいる故意の結果だとしても同じ反応をしていそうだ。
私も兄も警戒心が低いだとかのんきだと言われることがたまにあるけれど、間違いなく父に似たのだろう。
「これも仕事のうちだ。しっかりな」と言われてしまえば断るなんてできず、蓮見さんを連れ立って社長室を出た。
私の隣を歩く蓮見さんを見上げる。
「あの、どういった経緯ですか?」
「宮澤社長に、春乃の怪我について一度謝りたいと思っていたから電話を入れて今日のスケジュールの確認をした。できれば直接会って謝罪したいと申し出たところ、そんなのはいいけれど一度遊びには来てほしいと言われ、約束の時間に出向いた……という経緯だな」
「ああ、そういう……なるほど。すみません」
うちの父が〝いいからいいから〟と手を招いたのだろう。
「いや。一度春乃の職場を見たいと思っていたのも本当だ。ただ、ふらっと見られればいいと考えていたんだが、思いのほか大事になったな」
蓮見さんが〝大事〟と言ったのは、他の社員からの視線の多さが理由だ。
並んで歩いているだけで、すれ違う社員や立ち止まっている社員、社内のそこかしこから視線を浴びる。
端正な顔立ちやスラッとしたモデルのようなスタイルの蓮見さんなので、ある程度の注目を集めるのは当然だとしても、これだけ凝視されるのは、私の予想通り提携の話に加え色々と憶測が飛んでいるからだろう。
ちなみに父はこれから取引先に行くと言うので、蓮見さんの対応は完全に任せられた。本当に忙しない人だ。