政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


『気にしないわけにはいかない』と言った蓮見さんを見上げ、別に大丈夫だと遠慮しようとして、でもそれを許さない空気を蓮見さんが出すので渋々口を開く。

「たぶん、私は自分で自分の首を絞めているんです。〝社長令嬢だから〟って言われても、嫌なら嫌だって言えばいいだけの話なのに、そうしないでひとりでぐつぐつ煮えくり返って。独りよがりなんです」

どうして私は蓮見さんにこんなことを話しているのだろう。
どうして蓮見さんは、聞きたがるのだろう。

この間も抱いた疑問がそっくりそのまま浮かんできた。
友達にも話したことのない胸の内なのに、蓮見さん相手に話せてしまう自分が不思議だ。

「それは、そうするよう言われて育ったからだろう」

返って来た言葉に、祖父の口癖が祖父の声で再生される。
〝沈黙は金〟。

「半分はそうです。でも残りの半分は違う。自分が恵まれた立場なのはわかっているから……経済的な不安がまったくないという環境はとても恵まれてることだから、周りからそれを言われても反論しちゃいけないなって、自分のなかでストップがかかるんです。事実なんだから飲み込まなくちゃって」

私はこれでもそれなりに努力はしてきたし挫折だって味わってきた。試験だってひと一倍頑張って学年でも一桁順位を守った。

小学校から中等部の二年まで習った水泳では関東大会に何度も出場したし、長く習った習字も中等部三年間、毎年金賞をもらった。

苦手なものは克服するための努力をしたし、得意なことも実力が衰えないよう精進した。
私は、誰が相手でも胸を張って頑張ってきたと言える。

それでも、そういう私の十年以上を〝社長令嬢だから〟としか評価してもらえないことに堂々と抗議できないのは、自分と相手の境遇を無意識に比べてしまうからだ。


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