政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
私が両親から預かったスーパーボールをふたつ持っていたとして、ひとつしか持っていない相手に〝いいな〟〝ずるい〟と言われても、苦笑いを浮かべて困るしかないのと一緒だ。
「〝いいでしょ〟って開き直ることも、〝そんなこと言われたら悲しい〟って伝えることもできないで、ひとりで勝手に傷ついたり凹んだり憤ったりしてるんです」
スーパーボールすくいに夢中になっている男の子の服に水が跳ねる。
横に立っていたお母さんがすぐにタオルを取り出し、笑いながら濡れた服を拭いていた。
「自分が頑張ってるって思えるならそれでいいとも思うんです。だけど割り切れないのはたぶん、周りからの私個人への評価が欲しいのかもしれません。〝社長令嬢だから〟って言い訳も逃げもない、ただの私への評価が」
隣を見上げて笑った。
「やっぱり、甘やかされて育ったからわがままなんですかね。十分恵まれているのにこれ以上を望むなんて強欲ですよね」
蓮見さんはじっと私を見てから口を開く。
「上を見ても下を見てもきりがない。自分がいる場所だけを見て考えればいい。他と比べて恵まれているからなどという理由で、望みを口にすることが許されないなんて馬鹿げてるとしか言いようがない」
少しだけ声に不満が滲んでいた。
「そういう意味では、宮澤社長が言っていたように校内の雰囲気が悪かったんだろう。でも本来は〝社長令嬢だから〟と、いい意味でも悪い意味でもひと言で片付けるのはひどく浅はかだ。それを春乃は知った方がいい。そんな評価しかできない周りが悪いのであって、おまえはなにも悪くない」
真っすぐな眼差しは、出会った頃と変わらない。
無感情のように見えるのに……どうして、優しさを感じるんだろう。