政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
今は違う。
料理を食べて〝おいしい〟と感想をくれるところも、お風呂上り、ソファで私と話す時間を作ってくれるところも、私が不自由しないよう、歯ブラシや身の回りのものを揃えてくれたり、在庫の少なくなったカモミールを買い足してくれる気配りも、知ってしまった。
体調や怪我を心配してくれたり、柳原さんの一件以降『ひとりのときのインターホンは基本無視しろ』と言いだしたり……ちょっと笑いたくなるくらい過保護な部分もあるのだと、気付いてしまった。
蓮見さんは冷たい人ではない。優しくないわけでもない。
ただ、恋愛とか結婚に、感情を求めないだけだ。
〝夫婦〟という形に落とし込めて考えて動いているだけ。
そう考えた途端、これまでの彼の言動がストンと腑に落ち……同時に、とても残酷だとも感じた。
私の顔に影が落ちた理由を誤解したのか、蓮見さんがそっと私の頭に触れる。
慰めるような優しい手つきだった。
「おまえが自分を恥じる必要は少しもない。俺は春乃を春乃個人として見て認めて、望んで隣に置いている。それを忘れるな」
真っすぐな眼差しも心強い励ましの言葉も嬉しいのに、今は胸をどうしようもなく苦しくするばかりだった。
それでも笑顔を作った。
「ありがとうございます」
この人の優しさは、私にとってはとても……とても、残酷だ。