政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
出入り口に近い窓際のテーブル席に座っていると、コーヒーを両手に持った男性が向かいの席に腰を下ろした。
男性の名前は盛岡さん。
奥さんとのふたり暮らしで子どもはいないらしい。
「これ、よかったら」
私はいらないと遠慮したのだけれど、気を利かせてくれた盛岡さんから、厚手の紙カップに入ったコーヒーを差し出された。
季節に合わせて変わる紙カップには、このカフェのロゴと黄色いイチョウの葉が印刷されていた。
「いえ。本当に結構ですので。それより、気になっているというのはどういった点でしょうか」
すぐに本題に入った私に、盛岡さんは「ああ」と目を細める。
店内は六割ほどの席が埋まっていた。中年の人が多い。
「太陽光の設備についてなんだけどね、〝ロータステクノロジー〟と提携したんだって? そのへんのことについて詳しく聞きたくて。提示した条件はどんなものなんだろう。教えてもらえるかな」
切り込まれた話題に思わず盛岡さんを凝視してしまった。
うちと蓮見さんの会社の提携なんて、どうして盛岡さんがそんな内部情報を知っているのだろう。
うちの社員だってつい先日知ったばかりなのに、盛岡さんが知るのは不可能だ。
当然、現在の顧客にもまだ提案していないし、そこから漏れることはない。
となれば〝ロータステクノロジー〟側の仕事関係者だろうか。
それにしたってかん口令が敷かれているはず……と考えながら、未だにこにこしている盛岡さんに、笑顔を向けた。