政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「どうして私に相談するの? 相手、間違えてない?」

嫌そうな顔をして見えるのは気のせいではない。
うんざりしている柳原さんに「間違えていません」とハッキリと答えた。

「蓮見さんとの付き合いは柳原さんの方が長いですし、彼のことをずっと見ていたならよく知っているとも思うので。でも……無神経だとは承知しています。すみません」

謝った私に、柳原さんは居心地悪そうに視線を横にずらした。

「それは、別に。色々まずかったのは私の方だし、今思うとどうかしてた。あの時、しっかり蓮見さんに終わりにしてもらえてよかったって、今は思ってる。だから、宮澤さんが自分を悪く思う必要はない」

私を見た彼女は「顔、痕が残らなくてよかった」と、ぽつりと言った。
怪我をしてから二週間。頬の痣は消え、内頬の傷も治った。当然もう湿布は貼っていない。

「でも普通、あんなことがあった相手に話しかけないんじゃない? やっぱり宮澤さん、少し変わってる」
「私としては、一度大きな喧嘩した相手との方が全部さらけ出している分、なんでも話せるというか、気が楽なんですけど……変わってるんでしょうか」

同期のなかで、どうして白崎と一番仲がいいかと元を正せば、飲み会で言い合いをしたからだ。

『一度気を許した相手には素直になれるってことか』
白崎がいつか言っていたあれは的を射ている。

柳原さんは「まぁ、どうでもいいけど」とケーキをひと口食べてからこちらを見た。

「それで、〝愛のない結婚を蓮見さんは望んでいて、それを承知でいたはずなのに、いつの間にか好きになっちゃってこれからどうしようか迷ってる〟っていうのが相談?」


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