政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
私が十分近くかけてした相談を、簡潔にまとめた柳原さんにうなずく。
彼女は背もたれに体を預けて足を組んだ。
天井を仰ぎ、ふーっと息をつき、ようやく踏ん切りがついたように私に視線を戻す。
「蓮見さん側に気持ちがないって、どうしてそう思うの?」
「それは、出会ってすぐに言われたので。私と結婚するのは、結婚結婚うるさい周りの口を黙らせるためで、結婚生活にはあたたかさやベタベタは求めていないって」
柳原さんは少しわからなそうに眉を寄せたあと「先に言っておくけど」と前置きした。
「私は雇われていた期間はたしかに長いかもしれないけど、蓮見さんと親しかったわけじゃない。勝手に知った気分になっていただけで、実際は何も知らないに等しい。だから、彼の考えや気持ちなんて私にはみじんもわからない」
ハッキリと言った柳原さんが続ける。
「あの部屋に入ったのだって、あの日が初めてだったしね」
カフェラテを飲む柳原さんを見たまま、数秒停止する。
だって、柳原さんはハウスキーパーで一年半も部屋の掃除を任せられていたはずだ。なのに、部屋に入るのが初めて?
なぞなぞのような言葉に黙って瞬きを繰り返す私に、柳原さんが答えを教えてくれる。
「蓮見さん、宮澤さんと住み始める直前に今の部屋に越したのよ。それまでは別のマンションに住んでいて、一年半私が掃除したのはその部屋。だから、あのマンションにはあの日初めて行ったの」
すんなりと〝そうなんですね〟と受け入れられなかったのは、以前蓮見さんから聞いていた話と合わないからだ。