政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「そうか。ならいい」

もちろん、そんな予定はない。ワンシーズンと言わず、コートが必要になる時期までには破談にして出ていくつもりなので、余計な荷物は持ってきていないだけだ。

私は嘘が下手だと定評があり自負すらしているのに、それ以上は詰められず胸を撫でおろす。

もっとも、蓮見さんも別に私の服の量が多かろうと少なかろうとどうでもいいのだろう。

その後も、「おい」だの「来い」だのという威圧感たっぷりの声に奥歯をギリギリさせながらも従い、お風呂やトイレ、キッチンなどの案内を終える。

やたらと広く綺麗な部屋は色々と最新式で、テレビは、リビングの天井照明に付属しているプロジェクターで壁に映して見るだとか、お風呂の照明の色合いが何段階も調整できるだとか。

蓮見さんは無表情で淡々と、でも一応きちんと教えてくれたのだけれど、機械が苦手な私は余計なものは触らないようにしようと決意を固めるばかりだった。

そんな事務的な時間を終えたあと、また「おい」と声がかかったので、さすがに眉を寄せながら蓮見さんを見た。
この部屋に入ってから六度目の『おい』だ。

「今日はこれから外せない仕事があって、地方に出向く。帰りは半月後になるが、それまでに何か質問があれば聞いておく」
「え、半月後……?」

このまま夜になっても、ちっとも打ち解けて話せる気配はなかったので、出張だという蓮見さんに内心喜んでから、その長さに驚く。

私の反応に、蓮見さんは不思議そうに「なにか問題があるか?」と聞くので、なんとなく腑に落ちない気持ちのまま首を横に振った。

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