政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「〝こんなに〟? 言っておくが、長く待ったのも悩んだのも俺の方だ。たった一ヵ月で音を上げるな」

それはその通りなだけに黙ると、蓮見さんが続ける。

「それに、秋斗の友人だと告げたらおまえは俺個人としてではなく、兄を通した俺を見るだろ。それは、なんとなく嫌だった」

こちらも、言われてみれば気持ちはわかった。

私だって、散々父の付属品みたいな言われ方や扱われ方を嫌ってきたから、個人として評価されたり相手をされたい気持ちは痛いほどわかる。

でも。
周りにどう思われていようがどうでもよく思っている蓮見さんが、私相手にはそう思わないのだと知り、じわじわと嬉しさがこみ上げた。

「初日に部屋を空けたのは、春乃は慣れない部屋では寝付けないと秋斗から聞いていたからだった。正直、ひとりにするのはどうかと思ったが、俺を覚えていない春乃を見て、予定通り出張に出た方が春乃のためになると思った。慣れない部屋で知らない男と暮らすのは気を張って疲れるだろ。疲れると色々症状が出るとも聞いていたから、それを考慮した結果だった」

自分自身を〝知らない男〟と表した蓮見さんに、自然と顔をしかめていた。

私が覚えていないと知ったとき、蓮見さんはどんな気持ちだったのだろうと考えたからだ。

それでもグッと耐え、私のためにひとりで落ち着く時間を用意してくれたのか……と申し訳ないような嬉しいような気持ちになる。


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