政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「でも、出張から戻ってきた日は……その、抑えなかったですよね。気持ち」
半月部屋を空けてはいたけれど、そのあとは隣で寝たし……体も重ねた。
頬が熱くなるのを感じて指の背で隠していると、蓮見さんは心外そうな顔をした。
「言っておくが、俺は抑えるつもりだった。俺の気持ちがどうであれ同居してすぐに手を出すのはどうかと思ったし、まず春乃からしたらありえないだろうと考えた。だから、春乃の気持ちが追い付くまでは待つつもりでいた」
「え……でも……」
あの日蓮見さんはやや強引に覆いかぶさってきたはずだ。
今の言葉とあの時の行動が矛盾していてうまくかみ砕けない。
そんな私を見て、蓮見さんはひとつ息をついた。
「あれは、殴られる覚悟で喧嘩を売ったつもりだった」
「え?」
「おまえが相手と打ち解けるには一度喧嘩をするのが手っ取り早いと秋斗から聞いてたんだ。でも、俺は攻撃して春乃を傷つけたいわけではないし、喧嘩のきっかけなんて考えたところで思いつかなかった。だから、気持ちが通じ合ってもいないのに手を出そうとすれば、性格的に春乃は怒るだろうと考えた。それなら、傷つけずに喧嘩になる」
「え……え、待ってください」
あれが喧嘩だった……?
私が怒ってひっぱたくのを狙ってのことって、だって……。
たしかに、空気には挑発が含まれていた気がするけれど……え。
「拒絶されるために、わかりやすく挑発したはずだ。結果は……まぁ、俺が予想していたものとは違ったが」
苦笑され、私は両手で顔を覆いたくなり、蓮見さんが片手を握ったままなことを思い出し、せめて片手を顔に持っていく。
こうして蓮見さんと一緒の時間を過ごして知った彼の性格からすると、あの時はたしかにらしくないくらい挑発的だった。