政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
そのあと、正直に白状すれば、私は感情も高ぶっていたし、プロポーズされて嬉しかったし、とにかくギュッとするだけじゃなく、キスしたりもっと深くまでたくさん触れてほしいと心の内では望んでいたし、顔にも出ていたと思うのだけれど。
『必要なら着替えろ。俺はネクタイを締めるが、春乃は自由でいい』
蓮見さんは、私の腕を掴んでソファから立ち上がらせた。
『……出かけるんですか? どこに?』
『役所と、春乃の実家だ。婚姻届けを持って挨拶に行く』
すぐに携帯を耳に当てた蓮見さんの電話の相手が、スピーカーじゃないのに漏れてくる明るい大きな声で父だとわかったけれど、しばらくポカンとしてしまった。
ネクタイを締めスーツで固めた蓮見さんは、その後予定通り役所を経由して有名な和菓子を手土産に私の実家に向かった。
そして、予行練習をやめ正式に結婚したいと両親に頭を下げる。
父も母も嬉しそうで、私も嬉しくて、でも蓮見さんはいつもの無表情の端っこに少しの緊張を乗せていて、そんなところが微笑ましかった。
証人欄は両親に頼んだ。
本来なら一ヵ所は蓮見さんのお父様なりお母様にお願いした方がいい気がして進言もしたけれど、〝うちの親はそういうことにこだわりはないからいい〟と言う蓮見さんに従った形だ。
どちらにしてもご挨拶には伺わないとなので、後日、うちの両親と一緒に一度蓮見さんのご実家に出向き、そのあと再度顔合わせの場をしっかりと設けるという話でまとまった。