政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
別に蓮見さんが半月家を空けるくらい、私にとってはなんの問題もない。ただ、同居初日から半月相手を放っておくというのは常識的にはどうだろうと疑問は残った。
「いえ……大丈夫です。それより、少しいいでしょうか」
気を取り直して蓮見さんを見る。
「ああ」という了承を得て、やっとこちらのターンがきたかと口を開いた。
「あの。自己紹介もまだされていないんですが。もしかして、政略結婚だと名前も教えてもらえないんでしょうか」
ちょっと嫌味を込めて言うと、蓮見さんは私をじっと見てからひとつ息をついた。
「蓮見大祐だ」
「蓮見さん。私は、さっきも言った通り、宮澤春乃です。なので、〝おい〟だの〝こっち〟だの呼ばれても今後は返事も反応もしません。もし、名前も呼んでくれない相手にも尻尾を振って従うような相手を望んでいらっしゃるなら、価値観の不一致による婚約破棄で構いません」
今までの様子から、どうも亭主関白っぽい蓮見さんにハッキリと物申す。
本気でモラハラを押し通す生活を送りたいなら、速攻で歯向かってきた私は不適合だと判断するかと思いそれを望んで強く出たけれど、意外にも蓮見さんは気分を害した様子は見せず。
「そうか。わかった」
そう端的に返すだけで拍子抜けする。
威勢よくケンカを売ったのにまるで感情のない返事をされ、不発感が残った。
相手が望んでいるのがドライな生活、というのはなかなか破棄に持っていきづらいものだとここにきて初めて気付く。
ケンカにすらならない。