政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「振袖、成人式のがあったよね。持っていってもいい?」
結婚の挨拶なら着物がいいだろう。
帰りがけに思い出して言った私に、母は「ああ、そうね」と笑顔を見せてから少し残念そうに眉を下げた。
「正直、春乃ちゃんが予行練習を終えて本番を迎えないまま出戻ってくる可能性も半分以上あるかなって踏んでたのよ。ちゃんとまとまるなら新しく作っておけばよかったわ。今からじゃもうオーダーメイドは間に合わないだろうし……せめて草履とバッグだけ新調する?」
「いいよ。全部気に入ってるから、今のままで大丈夫。その前に、うまくいかないかもって思ってたの?」
経済力を一番に望む私にはもってこいの相手だと推していたはずなのに、どうして……と考えていると母が言う。
「だって、春乃ちゃんの性格からして愛情がない結婚生活なんて無理でしょう? でもほら、自分で選んだ相手だと春乃ちゃん、いつもうまくいかなくて泣いてたから、私たちで用意しようかって話はお父さんと前からしてたのよ。そんなときに蓮見さんと提携の話が出て、まさに渡りに船だったってわけ」
「春乃は案外ほだされやすいから紳士的な蓮見くんに惚れる確率は高いと踏んだが、蓮見くんが音を上げるんじゃないかと思ってなぁ。母さんといつ蓮見くんからキャンセルの連絡がくるかと話していたんだが、まさかこんな嬉しい報告がくるとは思わなかったよ。いやいや、生きててよかったなぁ」
別に今まで九死に一生の事故に遭った経験もなければ大病を患ったこともない父が呑気に笑う。
娘がキャンセルされるかもしれないと思っていたと笑う両親に、呆れればいいのか怒ればいいのかわからなくなって、結果的に笑みがこぼれた。