政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
私を二十四年間育ててくれた両親だ。私の性格なんて知っていて当然だった。
〝経済力さえあればいい〟が負け惜しみからの言葉だとわかりながら、そこを使って蓮見さんの部屋に送り込まれたというわけだ。
キャンセルされると思われていたのは癪だけれど、私自身、蓮見さんと釣り合う自信があるかと聞かれれば難しいところなので責めないでおく。
「とりあえず、振袖と一式持ってくるわね。着付けはどうする? 自分で着るのが面倒なら日程が決まったら教えてくれれば頼んでおくわよ。私も頼むからそのついでに」
「大丈夫。着られる」
「そう? でも、当日困らないようにそれまでに一度か二度、着てみなさいね。練習用の訪問着も持ってくるからちょっと待ってて」
母が二階のウォークインクローゼットに向かうのを眺めていると、隣から「着付けができるのか?」と聞かれる。
答えようとしたけれど、父が話しだす方が先だった。
「小学校の高学年の頃に京都に行ったことがあってな。その時に春乃が黄色い着物に一目惚れして買ったんだが、自分でも着られるようになりたいと言うから着付け師を呼んで週に何度か習わしていたんだ。自分で着られるようになってからはたまに着物で出かけたりもしていたんだが、高等部の頃でパタッとブームが終わったなぁ」
ブームが終わったわけじゃない。
着物で歩いているところを見たクラスメイトに〝さすが社長令嬢〟だと揶揄されたからだ。
どんなに好きなものでも、その烙印が押された途端、どうしても手が伸ばせなくなってしまうのだ。
自分がないと言われればその通りでも、私には周りに何かを言われてもそのままでいることは難しい。
気持ちを飲み込んで「飽き性はお父さんに似たんだよ」と笑った私を、蓮見さんがじっと見ていた。