政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


実家から役所に戻り、記入済みの婚姻届けを提出する。

なにも気持ちが通じ合ったその日にこんなに急いで色々回らなくてもいい気がしたけれど、「これ以上はもう待ちたくない」と言う蓮見さんに従った。

若干眉が寄っていて苦々しい顔をしていたのは、うんざりしていたからだと思う。

なんだかんだと十年もこのいっこうに解決しない問題を頭の隅っこに置いていてくれたのだ。私だってきっと、やっとその問題が解決済みのボックスに仕分けできるとなれば、急ぐ。

蓮見さんが決して私とのことを迷惑に捉えていただとかそういうわけではなく、一区切りつけたかったのだろう。

「問題ないですね。では、おめでとうございます」と、役所の人に営業スマイルで祝福され帰路につく。

会社の先輩たちに聞いてはいたものの、本当にあっけなく終わった。
これで本当に私は〝蓮見春乃〟になったのだろうかと心配になるほどだ。人ひとりの名前を変えるのだからもう少し仰々しくてもよさそうなものだ。

とりあえず、今後は会社に報告して新しい名前の保険証と名札を用意してもらわないと。診察券関係は次回の受診時で問題ないだろうし、他は私宛の郵便くらいだけれど、このまま実家に届いていても困らないので放っておくことにする。

住所変更はさきほど役所で済ませたので、大事な郵便物はきちんとあのマンションに届くはずだ。


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