政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「名前だとか住所の変更だとか、女性ばかりが手続きがあって大変だって話をたまに耳にしていたんですけど、たしかに少し手間かもしれないですね」
もしも私が資格コレクターだったら、資格証ひとつひとつの名前も変更が必要だったかもしれない、と考えるとゾッとした。
運転免許すらなくてよかった。
静かな車内。
少し待ってみても、ハンドルを握る蓮見さんから返事がないので気になり隣を見る。
もしかしたら、男性を責めたような物言いに気分を害してしまっただろうか……でも、そんなに心の狭い人でもないと思うけれど。
不思議に思いながら見つめていると、そのうちに蓮見さんが口を開いた。
「着物や浴衣が好きだったなら、また着ればいい」
「え?」
「まとまった休みがとれたら京都にでも行って、好みのものを何着か仕立てるか」
やっと返ってきた話題はそれまでとはまったく違うもので首をかしげる。
でも蓮見さんはドライな反応しか示さないときはあるにしても、完全に無視することはない。となるとなにか脈略があったのだろうか……と考えていたとき、蓮見さんが続ける。
「おまえは俺の妻だ」
正面を向いたままの彼の横顔を見つめ瞬きを繰り返す。
妻……と言われればそうだ。さきほど婚姻届けを提出してきたから、戸籍上ももうしっかり蓮見さんの妻になっている。
「……そうですね」
不思議に思いながらもそれだけ返した私に、蓮見さんは一度こちらに視線を向けたあと、再び進行方向に戻した。