政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「親子関係は、たしかに運命としか言えないし生まれながらにして持っているものには違いが出てくる。だから、周りは羨ましがって色々言うかもしれない」

また話題が変わる。
でも、蓮見さんがなにかを伝えてくれようとしているのがわかったので、黙って続きを待った。
車内を、優しい空気が包んでいた。

「でも、夫婦は違う。俺が春乃を望んだから夫婦になったんだ」
「……はい」
「ここは、俺の隣は、おまえが掴み取った場所だ。運命でもなんでもない。今まで色々傷ついて考えて努力してきたおまえだから、俺は惹かれた。〝宮澤春乃〟じゃなければ意味がないし、きっと欲しいとも思わなかった」

車が赤信号で停車すると、蓮見さんがこちらを見て目を細める。

「少なくともひとりの男を十年待たせたんだ。自信を持っていい」

蓮見さんがとても柔らかく微笑んでいるから、私もそうしたいと思うのに……じわじわと浮かんでくる涙とこみ上げる感情が邪魔をして笑顔が作れない。
そんな私に蓮見さんが告げる。

「居心地が悪くないよう俺も努力する。だから、ずっとそこに座ってろ」

頬を撫でられ、唇をかみしめる。
胸を包む暖かい感情が、これまでついた傷痕を埋めていくみたいだった。

今までのこと全部が報われた気がした。

蓮見さんの言葉でこれまでのことがどうでもよくなるなんて我ながら単純だとは思うけれど、でも、これが私が望んでいたものなんだと、蓮見さんに告げられて初めて気付いた。


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