政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「ところで、今日からの同居について、春乃はどう聞かされている?」
さっそく〝春乃〟と名前で呼ばれ驚く。
案外素直らしい。
呼び捨てにされるのは抵抗があったけれど、蓮見さんは六歳も上だしそこは突っかからないことにした。
「予行練習だと伺っています」
最後にぼそっと「新婚生活の」と足した私に、蓮見さんは表情ひとつ変えずに答える。
「その認識で間違っていない。ただし、予行練習だからといって曖昧な関係性のまま暮らすつもりもない。俺のことは〝夫〟として見て接しろ。俺も春乃を〝妻〟として見る」
「……わかりました」
蓮見さんの言い分はわかった。
予行練習だって本番同様本気で執り行わなければ意味がない。
運動会と一緒だ。
とはいえ、夫婦として接するようにとひと言で言っても、夫婦という関係性には〝オシドリ〟だとか〝仮面〟だとか色々な形がある。
そこのすり合わせをしておかないと後々問題が起きそうだけれど、お互いの描いた夫婦の理想像のすれ違いから生活に多大なストレスがかかり、蓮見さんが婚約破棄を言い渡してくれるかもしれないので、その辺は言わないでおく。
その代わり、ずっと不思議だったことを聞いてみることにした。
「あの、蓮見さんはこの結婚、納得されてるんですか? そもそも蓮見さんはどうして結婚しようと思ったんですか?」
私の条件は誤解ではあるものの経済力。だったら蓮見さんの条件はなんだったのか、それをまだ聞いていない。
お互い条件が一致したからの政略結婚のはず、と見つめている先で、蓮見さんがソファに座る。
背もたれに寄り掛かり長い足を悠々と組む姿はとても絵になっていた。