政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「そうかー、結婚したのかぁ。いや、大祐から断続的に話は聞いていたんだけど、実際ふたりを目の前にすると感慨深いものがあるなぁ」
帰国を遂げた兄が父譲りの呑気な笑顔を浮かべた。
場所は大祐さんのマンションのソファ。
ひとり掛けのソファに兄が、長いソファに大祐さんと私が並んで座っている。
たまにまだ〝蓮見さん〟が混ざってしまうけれど、〝大祐さん〟という呼び方もようやく慣れてきて、初めて名前を口にした一週間前のような照れは消えつつある。
何事も繰り返すことが大事である。
訪ねてきた兄を、私は笑顔で、大祐さんは少し不機嫌な顔で迎え入れた。
と、いうのも。
「そもそも秋斗からなにも聞かされていない春乃が俺に会いにくるはずがなかったんだ。俺の話を春乃にするんじゃなかったのか」
そう、大祐さんと昔のことについて話しているうちにそもそもそこからすれ違っていると気付いたのだ。
私は兄からは大祐さんについて何も聞かされていないし、もちろん、薦められてもいない。
存在自体を認識していない相手には会いにいけない。
それを知った大祐さんの静かな苛立ちは、今、まっすぐに兄に向っていた。
じろっとした目で見られた兄は、ケロッとした笑顔で首をかしげる。