政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「あれ。言ってなかったっけ? なんか言った気がしてたんだけど、じゃあ俺の気のせいだったんだな。ごめんな、大祐」
こうも明るくあっさりと謝られてしまえば、これ以上責められない。
父や兄に文句をつけるたびにこの手を食らっている私としては、今大祐さんが感じている行き場所のない怒りが痛いほどよくわかった。
「もういい」と、ため息交じりに言った大祐さんの隣で、うんうんわかるわかると力強くうなずいていると、兄に話しかけられる。
「そういえば、空港であの子に会った。おまえの二代目の彼氏の……ああ、戸村くんだっけ。彼も海外に行ってたみたいで帰国したところだって言ってたな。春乃に会いたがってた」
懐かしい名前を出され声を飲んだ。
戸村くんと付き合っていたのは、中三から一年ちょっと。
『困っていたなら貸してあげればよかったのに。持っているものを人に分け与えないのは人として冷たすぎる』
『嫌いになったわけじゃないけど……ごめん。うっとうしいんだ』
告げられた言葉が頭をよぎり、あの時の嫌な気持ちまで思い出され自然と顔をしかめていた。
「戸村というのは」と大祐さんが聞くと、私よりも先に兄が答える。
「春乃の二代目の彼氏で、まぁ、こう言っちゃ悪いけど俺はあまり好きじゃない。春乃が追い詰められて相談するなんてよほどなのに、平気で突き放すようなこと言ったやつだからな。そもそもどこが好きだったんだよ」
心底わからないといった顔で聞かれる。
十年近く前のことだし、思い出すまでに時間がかかった。