政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「たしか、私のこと特別扱いしなかったからだと思う。みんなが〝お嬢様〟っていう目で見るなか、戸村くんは〝偉いのは親であって、こいつじゃないだろ〟って。〝だから、そういうフィルターかけて見るのは宮澤にも失礼だ〟って言ってくれて、それで……」
「コロッといったんだな」

言ったのは大祐さんだった。責めているわけではないにしても、面白くはなさそうな眼差しで問われ口を尖らせた。

「中等部の頃の話です。クラスの子たちにからかわれていた時、男子にそんなこと言って庇われたら好きになっちゃうものなんです」

当然の成り行きだった。

しかも戸村くんは、頭もよくてスポーツも万能で生徒会長を務めていたような人気男子だ。
顔立ちもアイドルみたいに甘く整っていたし……そう、仕方ないのだ。

「春乃はほだされやすいからな。ちょっと優しくされたらすぐフラッといってたし。電話でしか聞いてないけど、後半三人くらいはもうあっという間に始まって終わってたもんな」

ケラケラと笑う兄に対して、どんな顔を返せばいいのかわからなくなり、隣を見る。
あっという間に終わったきっかけを作った当人は涼しい顔をしてコーヒーを飲んでいた。

こんなに大人な人が、高校生相手にわざわざ会いに行き、私を大事にしてほしいと頼んだのだと思うと、胸がキュンと鳴る。

普段の態度からはちっとも見えない私への気持ちが嬉しかった。


< 212 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop