政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
十一月第一週目の火曜日の夜。仕事終わりに寄ったのは、会社の最寄り駅近くにあるカフェ。
メニューに軽食がないカフェを選んだのは長居をしないためだった。
帰宅したらいつも通り夕飯を作る予定なので、紅茶を飲み終え次第すぐに切り上げる予定で、その旨も電話で戸村くんに伝えてある。
一応、予防線として電話口で伝えた、私が結婚したという事実にだいぶ驚いてはいたけれど、それも私の年齢を考えれば当たり前なのかもしれない。二十四歳は結婚するには早い方だ。
十八時二十分。大通りに面したカフェの窓側の席に戸村くんを見つけ、向かいの席を引く。
すぐにテーブルまでやってきたスタッフに紅茶をオーダーしながら座り、戸村くんと目を合わせた。
最後に見たときと大きく変わらない彼は、スーツに身を包んでいた。
「久しぶり」とお互いに挨拶してから、なんでもない雑談をする。
ただ懐かしんでの連絡にしては迅速だったし執拗にも感じた。実家に電話をするなんてなにかしら目的があるのは明確だ。
高等部時代、生徒会長を務めるほど頭のキレる彼を知っているので、浮ついた話というよりはうちに関係するビジネスの話の予感がしていた。
そしてその予感は、テーブルに紅茶が運ばれてきたあと当たった。
「でも、まさか結婚してるなんて思わなかったなぁ。本当はずっと後悔してたんだ。宮澤と別れたことを。これまで他に付き合ってこなかったわけじゃないけど、宮澤と付き合っていた頃が一番楽しかったってよく思い出す」