政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


カップに入ったコーヒーを揺らしながら、戸村くんが続ける。

「相手が誰だか聞いて驚いたよ。知らない人なんていないトップ企業だ。でも、あれだけの企業となると、ふたりの結婚にビジネスが絡んでいないとは思えないんだけど、その辺はどう?」

探る眼差しをじっと見つめてから、笑みをこぼして口を開く。

「この間ね、ライバル企業の代表が声をかけてきたの。うちと蓮見さんの会社の提携契約の内容を変更してほしいって。どうせうちが持つ特許狙いなんだからって」

蓮見さんと無事婚姻届を提出した後、その話もきちんとしている。

『〝レイドバッグホームズ〟はビルや施設も手掛ける。そこにもうちの太陽光設備を入れるとなれば、今の生産量を考えれば他まで回す余裕はない。俺の秘書も似たようなことを言っていたが、勝手な推測にすぎないし、いずれ秋斗が継ぐ会社だ。手を貸すことはあっても逆はない』

蓮見さんはきっぱりと言っていた。
たしかに、父はやたらと大きな契約をとってくるから、その言い分には納得したし、それに、誰を信じるかなんて迷う必要もない。蓮見さんが言うのだから、私はそれを聞くのみだ。

「愛されてなんかいないんだから、結婚は考え直した方がいいとも言ってた」

私が、いまいちかみ合わない返事をしたからか、戸村くんは「……うん」と歯切れ悪く相槌を打った。

「戸村くん、今、その人と同じ目をしてる」

ハッキリと告げた私に、戸村くんが目を見開く。
それから誤魔化すみたいに笑った。


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