政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「心外だな。俺は単純に同級生として心配を……」
「私が昔からそういう目に敏感だって知ってるよね。私の立場を利用しようとする目も、バカにする目も、すぐわかる。だから、戸村くんが純粋な気持ちで私をここに呼びだしたんじゃないことは、もうわかってる」

そう言ってから「ううん。違うかな」と自分自身の発言に首を振った。

「付き合っていた頃もそうで、私が盲目だっただけかも。少しの違和感を抱きながらも、そんなわけないって思いこもうとしてただけなんだって今わかった。戸村くんはきっと、あの頃から建設会社の起業の可能性を頭に入れてたんだよね。それで、私のことが使えるかもしれないって踏んだ。だからあんな風に言ったんだなってやっとわかった」

『困っていたなら貸してあげればよかったのに。持っているものを人に分け与えないのは人として冷たすぎる』

あれは、いずれ自分が頼む側になる可能性を考えての発言だった。

優しかった戸村くんに急に突き放されたような気になって悲しかったけれど、ようやく納得がいってスッキリした。

頭のキレる戸村くんが、自分の未来のために私にそういう考えを植え付けておこうと考えた。あれは、私を非難したかったわけではなく、戸村くん自身のため。ただそれだけのことだ。

もしかしたら私と付き合ったのも、体裁を気にしてだったのかもしれない。
あの頃は盲目で気付かなかったけれど、戸村くんは自分の見え方を気にする人だ。そのためなら努力も、周りを傷つけることも厭わない。

私と別れたあと、高級ホテルを日本中に手掛ける大手企業のご令嬢と付き合い出したという噂を思い出した。


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