政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「ああ、いいのいいの。もちろん、そのへんはふたりで決めればいいことだもの。だからこれは強制じゃないのよ。ただ、一度お店を見に行ってみるくらいはしてもいいんじゃないかと思って。ほら、春乃ちゃんも言うように一生に一度だもの。せっかくなら納得するドレスを着て欲しいし、心残りのないお式にしてほしいの」

お義父さんとお義母さんは、上品でとてもいい人たちだ。
私のこともすぐに受け入れてくれたし、私にかけてくれる言葉の端々には気遣いも感じる。

『私、娘がずっとほしいと思ってたの。だからつい押し付けたり甘えたりして負担になりたくないから、半分くらいはお客様っていう意識で接したいと思ってるの。でも、春乃ちゃんは自由に甘えてね。都合のいい時だけ実の親だと思ってわがまま言ってくれたら嬉しいわ』

お義母さんは笑顔でそう口にしたけれど、そんなこと普通は言えない。立派な方だと思った。
だから、納得のいくドレスをと勧めてくれるのはとても嬉しいのだけれど、安い買い物ではないし何より購入したところで活躍の場がないだけに困る。

返事に迷いチラッと隣に座る大祐さんに助けを求めたのに、彼は私と目が合いながらも何も言わずにその視線を逸らした。

その態度に、そういえば大祐さんもドレスの購入を勧めていたことを思い出す。なんなら着物や浴衣も作ればいいと言っていた。

これは、あれだ。完全なるアウェーだ。


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