政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「一生に一度しかない機会なら、俺にできる最高の形でその場に立たせてやりたいと考えるのは普通だろう。真新しいドレスを着せてやりたいと思っている。結婚式は、俺にとってもウエディングドレス姿の春乃を見られる少ない機会だ。俺の楽しみの邪魔をするな」
偉そうになのか、甘くなのか、どこに分別すればいいのかわからない命令をされ、眉を寄せる。
それを言えば私だってタキシード姿の大祐さんは楽しみだ。でも、着ているタキシードがレンタルだろうがオーダーメイドだろうが関係なく素敵だと思うのだけれど。
「それに、レンタルだとどうしても体のラインをすべて綺麗には拾えない。オーダーメイドするのが最良だ」
そういえば、大祐さんのスーツもワイシャツもオーダーメイドだけれど、たしかにシルエットがとても綺麗だ。
私も両親から既製品はサイズを合わせてもどこか不格好になるから、大事な場面で着る服はオーダーメイド品にするようにと昔から言われていたことを思い出す。
なので、蓮見家との顔合わせは仕立てた振袖で行ったし、大祐さんの部屋に初めて行ったときに着ていたワンピースもオーダーメイド品だった。
そう考えれば、結婚式という二度とない大舞台に仕立てたドレスで立つのもまぁ……と頭の中のシーソーが傾き始めたとき、お義母さんから伝えられた名前が浮かんだ。
「担当の〝御園さん〟って、大祐さんは会ったことありますか?」
「いや。その店に行くのも初めてだ。なにかあるのか?」
私の態度から察したのだろう。
目ざとく聞かれる。
「いえ……高等部の頃のクラスメイトに御園って子がいたんです。だから、そうある名字でもないしもしかしたら、と思っただけです」
「同一人物だったら困るような顔だな」