政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「どんな感じだったかなぁ」
蓮見さんの雰囲気や話し方、表情を思い浮かべながら独り言をつぶやく。
明日、どんな顔で会えばいいのかに少し悩みながらも、すっかり慣れた布団に誘われるまま意識を手放した。
……いや、〝どんな顔で迎え入れればいいのだろう〟じゃない。
ここ半月毎晩メッセージをやり取りしたせいで少し蓮見さんのことが知れた気がして嬉しくなったり、今日久しぶりに顔を見られることを心待ちにしているのはおかしい。
私はこの結婚を破棄に持っていくために行動あるのみなのだ。
当初の目的を忘れちゃダメだと考えながら父の会社である〝レイドバッグホームズ〟のモデルハウス受付という仕事をこなしてマンションに戻る。
スーパーでの購入品が入ったエコバッグを肩にかけ直しながら歩いていると、コンシェルジュのおじさま、国木田さんが「おかえりなさいませ」とにこやかな笑顔で迎えてくれるのでこちらも笑顔で会釈を返す。
「ただいま帰りました。朝も思いましたが、ネクタイの色、とても素敵ですね」
国木田さんのオレンジとも黄色とも違うネクタイは、これから紅葉していく葉のようだった。奥深く上品のある色味だと微笑む。
国木田さんも同じように目を細めた。
「ありがとうございます。宮澤さまがよく褒めてくださるので、おかげさまで毎日ネクタイを選ぶのが楽しいです。そのうちにプレッシャーになるかもしれませんが」
「それは申し訳ないです。でも、本当に素敵です。よく似合ってます」