政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
クスクスと笑いながらエレベーター前で立ち止まり、ボタンを押す。
この半月、毎日国木田さんと挨拶や短い会話を交わしているうちにだいぶ親しくなれ、それはこのマンションでの暮らしを少し優しくしてくれていた。
仕事だとしても、毎日〝いってらっしゃいませ〟〝おかえりなさいませ〟と笑顔で声をかけてくれるのはありがたいし、とても嬉しいものだ。
エレベーターに乗り込み、半月前蓮見さんから渡された部屋のカードキーを取り出した。
「合鍵……合鍵っていうか、合カード?」
恋人の部屋の合鍵を渡されるという行為に正直憧れはあったのだけれど、イメージしていたものとは状況もキーの形もかけ離れていて首をかしげたくなった半月前。
うちの会社もカードキーを扱っているものの、個人的には手に伝わる重さや感触といった面で普通の鍵が好きだ。
でも、今はこのカードキーがすっかり手に馴染んでしまった。
なんだかんだ言いつつも、これはこれで便利である。
慣れた手つきで玄関をカードキーで開けて入室する。
十月第一週の月曜日。
十九時の室内は暗いけれど、玄関先と廊下のセンサーライトがすぐに点灯し視界を広げた。
蓮見さんは今日の二十時頃帰宅予定なので、当然ながら部屋は私が朝出て行ったままだ。
それでも、これから蓮見さんが帰ってくることを思うと気持ちがそわそわする。
「よし。作ろう」
この半月で準備していたエプロンをさっそく身に着け、エコバッグのなかから食材を取り出し作業台に並べていく。