政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


白の大理石調の作業台は、うちのお客様からの支持も常に一番だけれど、こうして眺めるとやはり綺麗で人気もうなずける。

「にんじん一本と玉ねぎひと玉に、じゃがいもは……みっつでいいかな」

そもそも蓮見さんの胃の大きさがわからないので、とりあえず多めに作ることにする。あまれば明日、私がお弁当に持っていけばいい。

昨日までは適当に買ってきたもので済ませたりもしていたけれど、今日からはそうはいかない。
蓮見さんの苦手な〝家庭的な女性〟を演じるにはまずは家事……というか、家事以外思いつかなかったので、中でもダメージの大きそうな手料理は毎日作ると決めていた。

母に料理を習っておいてよかったと思う。
正直、仕事を終えてから料理をするなんて腰も気も重いけれどこれも作戦だと割り切り、水洗いしたニンジンに包丁を入れた。



「お、か……えりなさい」

にっこりとした笑顔であたたかい雰囲気をこれでもかというほど作り出して迎え入れてやろう。半月滞在していた事務的なホテルとのギャップに思わず眉を顰めさせてやる。

そんな私の計画は、蓮見さんが帰って来た途端失敗した。

用意していた明るい声は蓮見さんの顔を見ると同時に喉に引っかかり、笑顔も瞬時に消えた。代わりに発したのは通常よりも小さくてぼそぼそとした声で、そんな自分が嫌になる。



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